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混雑状況可視化システムで業務効率化と宿泊客の満足度向上を実現
~混雑を「見える化」し、くつろぎの時間を守る

活用した支援メニュー(最新版)
観光関連事業者デジタルシフト応援事業(令和7年度)

事業者情報

企業名
株式会社 ホテルかずさや
所在地
東京都中央区日本橋本町4-7-15
HP
江戸の町に時を知らせた「時の鐘」に由来する、「時の鐘通り」に建つ

ホテルかずさやは、創業135年を超える歴史を持つ老舗宿だ。JR新日本橋駅から徒歩1分という立地にあり、江戸の歴史の中心地として栄えた日本橋本町に位置している。

同ホテルは日本旅館として歩みを始め、長年にわたり多くの宿泊客に親しまれてきた。一方で、時代や人々の生活様式の変化に応じ、建物や運営スタイルを柔軟に変化させてきた点も大きな特徴だ。

2020年7月には施設の拡張を伴う建替えリニューアルを実施し、現在は154室を備える規模へと成長。日本旅館のおもてなしの心と、現代のホテルスタイルが楽しめる空間を提供している。

同ホテルは2024年、レストランおよび大浴場の混雑状況可視化システムを導入し、スタッフの業務効率化及び宿泊客の満足度向上を目的とした取り組みを進めてきた。今回、その導入に至った経緯や運用後の効果について、株式会社ホテルかずさや事業管理室の工藤政幸室長に話を伺った。

<補助金・事業を利用したきっかけ>
急速な宿泊需要の回復によりスタッフの業務対応が増加

ホテルかずさやが大切にしているのは、「街を楽しんでもらう旅」である。江戸時代、日本橋は日本の中心地として栄え、偉人が行き交い、歴史の転換点となる出来事が幾度も生まれてきた。かつての日本橋には多くの店や旅籠が軒を連ねていたが、現在もなお、その面影を残す街並みの中で、変わらず宿泊施設として営業を続けているのはホテルかずさやのみである。

この街とともに135年以上歩んできた同ホテルは、日本橋ならではの歴史や雰囲気を大切にし、街と一体となった旅の時間を提供したいと考えてきた。館内ロビーには江戸の歴史を伝える資料を配布し、2階には江戸時代の歴史と文化を紹介する展示コーナーを設けている。

また、「落ち着いて過ごせる時間を、設備とサービスで演出したい」という思いから、2020年の建替えリニューアルで特に力を入れたのが、レストランの拡張と大浴場の新設である。レストラン「食堂酒菜 時の鐘」は建物が面する通りにちなんで名付けられ、和食を軸に洋の要素を取り入れた日本橋らしい創作料理を、朝・昼・夜に提供している。面積が拡張されたことで、席間にもゆとりを持たせることができ、落ち着いた食事空間が実現できた。

また、2020年のリニューアルにて新設された大浴場も、落ち着いて過ごせる日本橋の雰囲気に馴染む設計を意識している。効率を優先して利用可能な人数を増やすのではなく、洗い場の数も制限し、一人ひとりが周囲を気にせずくつろげる空間である。

しかし、コロナ終息後、2022年後半頃から宿泊客が急速に増加した。レストランの拡張を行ったものの、宿泊需要の回復スピードは想定を上回っていた。予約が集中する時期には、朝食時間帯にレストラン前へ長い行列ができることがあり、案内対応や列の整理に追われるなど、スタッフの業務に支障をきたす場面も出ていた。

このような混雑状況がしばしば発生したため、特にレストランや大浴場について、施設そのものへの不満ではなく、混雑により利用できなかったという声が寄せられるようになる。

「想定していた以上のお客様の戻りはありがたかったのですが、スタッフの対応が追いついていない状況が発生していました。また、お客様にくつろいでいただきたいという思いで整えたレストランや大浴場でしたが、内容やサービスに対するご指摘ではなく、利用自体ができなかったという声をいただいたことに、大変申し訳なく感じました」と工藤室長は語る。

この状況を受け、混雑を緩和して、特に朝の忙しい時間帯のスタッフの負担を減らせないか、宿泊客が残念な思いをせずに済む仕組みはないかと、社内で話し合いを重ねた。そして、様々な意見が出る中で、宿泊客自身で混雑状況を把握できる「混雑状況可視化」システムの導入を検討することとなった。

システム導入にあたり、補助制度も検討した。その中で同ホテルが着目したのが、「宿泊施設デジタルシフト応援事業」(令和7年度現在の事業名は「観光関連事業者デジタルシフト応援事業」)の補助金であった。

江戸の中心地であった日本橋の歴史が展示されている「江戸『時の鐘通り』ミュージアム」
大浴場の洗い場には仕切りがあり、ゆっくりと体を洗うことができる

<補助金・事業を活用した取り組み>
空間の雰囲気を損なわない「混雑状況可視化システム」の選択

混雑状況が確認できる二次元コードはフロント、部屋などに設置されている
混雑状況は3段階で確認することができる
大浴場の脱衣所とレストランの入口に設置されている人数カウントのための人感センサー

混雑状況を可視化するために同ホテルが重視したのは、できる限りシンプルで、空間の雰囲気を損なわない仕組みだった。大型のサイネージを設置する方法も検討されたが、設置場所や機器配置の課題があり、視覚的な主張が強くなりすぎる懸念もあったという。そのため、二次元コードを活用して必要な情報を最小限の形で伝えられる方法を採用した。

混雑状況の把握は、宿泊客が確認できる館内の情報サイトで行う。フロントや客室内に設置した二次元コードを、宿泊客自身のスマートフォンで読み取ってもらう方式を採用している。表示は赤・オレンジ・緑の3段階とし、視覚的に状況を把握できるよう工夫した。

大浴場の脱衣所およびレストランの入口には人感センサーを設置し、通過人数をカウントすることで、施設内の混雑状況を集計している。これにより、実際の利用状況に即した情報を提供できるようになった。一部配線工事は必要だったものの、リニューアル後の建物は配線しやすい構造であったため、導入は比較的スムーズに進んだという。

<概算費用>および<補助金・事業の活用スケジュール>

◆概算費用
総事業費:約159万円 
そのうち補助金:約94万円 

◆補助金・事業の活用スケジュール
申請:2024年3月
交付決定:2024年4月
実績報告書:2025年5月
額確定:2025年7月
補助金受取:2025年8月

<効果>
システム導入により業務効率化が進み、さらにネガティブな口コミが減少

ロビーには日本橋を中心とした近隣エリアの観光リーフレットが用意されており、自由に持ち帰ることができる

システム導入後は、朝食時間帯におけるレストラン前の行列が減少し、混雑の緩和が図られている。その結果、朝の繁忙時間帯において、スタッフの対応負担が軽減された。

さらに「混雑のためにレストランや大浴場が利用できなかった」という口コミはなくなっている。
一方で、「混雑状況を確認しながらタイミングを見てスムーズに利用できた」といった声も寄せられており、混雑状況可視化システムには一定の効果が見られている。また、朝食時にレストランに並ぶ列の状況からも、混雑自体が以前より緩和されている印象があるという。

現在の仕組みは多言語対応まで至っていないものの、赤・オレンジ・緑といった色分け表示により、大まかな状況は言語に頼らず把握できるようになっている。ただし、今後は英語圏以外の宿泊客にとってわかりやすい表示なども検討していきたいとのこと。

宿泊客数が増加し、客室の稼働率が上昇している中でも、混雑に関するネガティブな口コミが減っているため、工藤室長は「大浴場が利用しづらいという印象が残っていれば、現在の稼働状況は実現していなかったかもしれない」と振り返る。

株式会社 ホテルかずさや 事業管理室 工藤 政幸 室長

再開発により、日本橋という街も変化している。日本橋が人を「呼ぶ街」へと姿を変えていく中で、同ホテルもその流れに歩調を合わせてきた。
「今後は、システムの効果測定の精度向上にも取り組みながら、お客様から寄せられる声をもとに、より快適な滞在環境づくりを進めていきたいです」と工藤室長は笑顔で締め括った。