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周遊観光バスの音声ガイダンス7言語へ拡充
~アフターコロナの訪日外国人の受け皿に

活用した支援メニュー(最新版)
インバウンド対応力強化支援補助金(令和6年度)

事業者情報

企業名
日の丸自動車興業株式会社
所在地
東京都文京区後楽1丁目1番8号
HP
車両の側面には、音声ガイダンスが7言語に対応していることを示す7つの国旗がある

 都内を中心に観光バス事業を展開する日の丸自動車興業株式会社。2012年からは都内観光ができる乗り降り自由な2階建てオープントップバス「スカイホップバス」の運行もスタートさせ、外国人観光客らの人気を集めている。
 同社は2022~2023年にかけて「インバウンド対応力強化支援補助金」を活用し、スカイホップバスの一部コースで、音声ガイダンスの対応言語を拡充した。

<補助金・事業を利用したきっかけ>
コロナ禍で新設したコース 音声ガイダンスが日英2言語のみ

真っ赤な車体が印象的なスカイホップバス
各座席に設置されている音声ガイダンス機器

 赤い車体が印象的なスカイホップバスは、その開放感はもちろん、東京を象徴するランドマークを座ったまま効率よく見て回ることができる利便性が大きな魅力だ。乗り降りは自由で、気になるスポットがあれば都度降りて観光できる。
 このシステムと密接に関わっているのが、GPSと連動した音声ガイダンスだ。各席に設置されている音声ガイダンス機器にイヤホンを挿せば、日本語・英語・中国語・韓国語・フランス語・ドイツ語・スペイン語の7言語で、車窓から見える風景の説明を聞くことができる。たとえば東京駅丸の内駅舎なら「辰野金吾が設計した」「太平洋戦争の戦災で被害を受けたが再建された」といった歴史から、「2003年に国の重要文化財に指定され、駅舎内の東京ステーションホテルは国指定重要文化財に泊まることのできる唯一のホテル」などの豆知識まで、多彩な情報が提供されている。バスガイドによる解説のような充実度で、そのスポットに興味を持ってもらい、気軽に降りて観光してもらう狙いだ。2012年以降、丸の内を始点として両国や浅草方面をめぐるルート(現レッドコース)、レインボーブリッジや銀座といった湾岸エリアをめぐるルート(現ブルーコース)を運行し、外国人観光客からの人気を集めてきた。
 2020、2021年はコロナ禍によりインバウンドが激減したことから、多くの期間は運行を見合わせていたが、春・秋の週末に限り本数を限定して運行し、日本人や在日外国人客の開拓も図ってきた。2021年には、かねてから要望のあった新宿や渋谷方面をめぐるグリーンコースを新設したが、同コースの音声ガイダンスは、当時の主要な客層に合わせて日英の2言語のみでの暫定導入だった。
 2022年10月の水際対策緩和に合わせ、9月からの3カ月間はプレ運行として平日の運行を再開。すると、すでに音声ガイダンスを7言語化していたレッド・ブルーの両コースから乗り継いできた外国人客から「なぜグリーンコースのガイダンスは2言語しかないのか」という問い合わせや、ネット上での厳しいレビューなどが相次いだ。スカイホップバスのマーケティングやサービス環境整備を担当するスカイホップバスマーケティングジャパン株式会社総合企画部営業企画課の榎本亮介課長は「7言語化は待ったなしの状況だったが、当時の企業の体力に限界があった」と振り返る。活用できる補助金を探したところ、インバウンド対応力強化支援補助金を見つけた。「多言語対応」の事業として、スカイホップバスの運行・車両を管理する日の丸自動車興業株式会社から申請した。

<補助金・事業を活用した取り組み>
膨大なデータ量 翻訳にも搭載にも時間を要した

右側のチャンネルボタンで言語を切り替え、イヤホンを挿して音声ガイダンスを聞く

 外国人観光客が増える春に合わせ、2023年3月1日に通年運行に戻すことが決まっていた。採択後、元々運用していた英語のガイダンスの原稿をもとに、他5言語へ翻訳した。グリーンコースは丸の内を出発し、新宿や渋谷を巡り、一部の便は東京タワーも経由して丸の内に戻ってくるルートで、全行程の所要時間は2時間弱。丸の内を出発してから最初の停留所は新宿御苑前だが、皇居や国会議事堂、永田町、赤坂御用地、迎賓館赤坂離宮といったランドマークや、地名の由来の説明などが続き、ほとんど切れ間なく音声が流れる。文章量は膨大で、翻訳だけで2~3週間かかったという。さらに、内容が過不足なく伝わるように各言語で細かなニュアンスの調整も行った。
 文面を確定させた後は、音声の読み上げ機能を使って、機械音声を録音。音声データ化し、SDカードへ落とし込んだ。データ量が大きかったため落とし込みの作業にも時間がかかり、バス17台全てに搭載し終えたのは、通年運行開始の直前だった。

概算費用

総事業費約314万円  そのうち半額が補助金

補助金・事業の活用スケジュール

申請:2022年12月
交付決定:2023年1月
運行開始:2023年3月
実績報告提出:2023年4月上旬
額確定:2023年4月下旬
補助金受取:2023年5月

<効果>
多言語対応コンテンツ いち早くインバウンドの受け皿に

スカイホップバスマーケティングジャパン株式会社
総合企画部営業企画課 榎本亮介 課長

 外国人観光客を受け入れる側にとって、多言語化は切っても切り離せない課題だ。榎本課長は「コンテンツの多言語対応は、海外からのお客様に選んでもらえる重要な要素」と力を込める。
 2023年3月の通年運行開始以降、乗客は順調に増えている。満員で希望者が乗り切れないというケースも散見されるようになり、9月からは今回の事業で音声ガイダンスを拡充したグリーンコースも含め増便した。観光業界はコロナ禍で大きな打撃を受けて離職者が続出し、急速に回復するインバウンドに対して人手が追い付いていない状況が続くが、その中でコロナ禍以前よりも多くの人に楽しんでもらえるコンテンツとしていち早く復活し、機能した形だ。
 現在は音声ガイダンスの「聞き直しができない」という課題を解決しようと、スマートフォンのアプリで配信形式にするなど、将来を見据えた情報収集も開始した。インバウンド向けコンテンツの最前線で、今後も歩みを止めない決意だ。