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多言語パンフレットやWEBサイトなどで観光情報を発信
~訪れた人が西東京市を楽しむための仕掛けづくり

活用した支援メニュー(最新版)
東京観光案内窓口 整備・運営事業(令和7年度)

事業者情報

企業名
一般社団法人Hug&Yoga協会(Tourist Information Center Nishitokyo)
所在地
西東京市南町5-3-5サウスタウン201
HP
コワーキングスペース受付にて、東京観光案内窓口を運営

東京都西東京市にある田無エリアは、都心から電車で約30分という距離にありながら、落ち着いた住宅街の風景が広がる地域である。田無駅周辺には商業施設や公共機関が集まり、生活利便性は高い一方、大きな観光施設や歴史的建造物が少ないため観光地としての認知度は高くない。しかし、西武新宿線田無駅から徒歩約6分の場所に位置する田無神社が、「日本でも有数のパワースポット」としてメディアに紹介されたことをきっかけに、参拝を目的とした観光客が増加。このような方々に、田無神社以外の西東京市のさまざまな場所の観光を楽しんでもらうため、西東京市の地域資源をどう活かすかが新たな課題となっている。

このような流れの中で、単に観光客を迎えるだけでなく、地域の飲食店や文化講師らと連携し、体験メニューの考案や、観光資源の発信などの、町全体を巻き込んだ取り組みも始まっている。

この取り組みを精力的に行っているのが、一般社団法人Hug&Yoga協会の伊勢佳弥子代表理事である。今回は、観光案内窓口を開設した伊勢氏に、その運用の経緯を伺った。

<補助金・事業を利用したきっかけ>
観光資源を活かして、地域をさらに発展させる

観光案内窓口では、多言語にも対応できるよう努めている

伊勢氏は生まれも育ちも田無であり、田無に対する愛着がとても強い。そのため、地元を盛り上げたいという気持ちを常に持って活動している。西東京市が開催した女性創業支援講座を受講し、女性を助ける事業ができないかと「赤ちゃんを抱えた母親がそのまま参加できるヨガ」をコンセプトにした「HugYoga」を開発。2017年に一般社団法人Hug&Yoga協会を立ち上げた。地域のために何かをしたいと思って動いた一歩であった。

その後、田無に女性起業家を支援する場をつくりたいという想いが生まれ、2019年に西東京市が公募した「女性の創業サポート事業」のプロポーザルに応募、無事通過してコワーキングスペース「OK西東京」を開設した。しかし、間もなく新型コロナウイルスが流行し、当初の計画は大きな影響を受けることになる。そこで方針を転換し、テレワークを行う人々に向けてスペースを開放した。西東京市の「女性の創業サポート事業」担当者に相談したところ、当初の内容を変更して男性の受け入れも可能だという回答をもらったため、対象も女性に限定せず、男性の利用も受け入れた。結果として、多くの人々が安心して利用できる場所となり、「この場所があってよかった」という声も数多く寄せられたという。

こうした経験を通じて、伊勢氏は地域に根ざした活動の大切さをあらためて実感したとのこと。また、地域全体が一体となって取り組める可能性は、他にもあるのではないかという想いが芽生えていった。

その後、前述したように田無神社が話題となり、多くの観光客が訪れるようになった。しかし、田無はもともと観光地としての想定がなく、行政にも観光だけを専門に担当する部署が存在していなかった。そのため、参拝客が訪れても、地域を十分に楽しむことなく帰ってしまうケースが目立つようになった。こうした状況を「勿体ない」と感じた伊勢氏は、知人に観光に詳しい方を紹介してもらい「観光案内窓口を開設してはどうか」とのアドバイスを受けた。

その提案に可能性を感じた伊勢氏は、自らが観光案内窓口を立ち上げ、田無の観光資源を活性化させる取り組みを始めたのである。コワーキングスペースに立ち上げた観光案内窓口は、2023年に「Tourist Information Center Nishitokyo」という名称で正式に東京都より「東京観光案内窓口」として指定された。

観光案内窓口を立ち上げたものの、伊勢氏には田無の観光資源を効果的にPRする手段が整っていなかった。そこで伊勢氏は、「観光案内窓口整備支援補助金」を活用し、WEBサイトやパンフレット、動画の制作を決意する。田無の観光資源を広く発信する体制を整え、より多くの観光客に地域の魅力を伝えることを目指したのである。

<補助金・事業を活用した取り組み>
観光客が「西東京市を楽しむ」仕掛けを作る

西東京市の観光スポット・グルメ等を掲載した観光案内マップ
西東京市の魅力を伝える観光案内窓口のWEBサイト

伊勢氏は、「まちテナ西東京」とも連携し、パンフレットや動画、WEBサイトを制作。西東京市の魅力を伝える企画を立ち上げた。まちテナ西東京は田無駅の改札すぐ横にある、地域の魅力を発信するアンテナショップ兼情報スタジオであり、「Tourist Information Center Nishitokyo」と同時期に観光案内窓口を開設した。

伊勢氏が特に意識したのは、「観光客が訪れて楽しい場所」を選定することであった。伊勢氏にはパンフレットや動画、WEBサイトの制作経験はなかったが、その想いを軸に一つひとつの工程に真摯に向き合った。

加えて、訪日外国人旅行者にも対応できるよう、パンフレットや動画には英訳を付けている。翻訳は、伊勢氏のネイティブの友人たちが協力し、自然で伝わりやすい表現に仕上がった。また、WEBサイトにはGoogle翻訳を導入し、多言語で利用できる環境を整えている。

さらに、西東京市在住で日本文化の普及に取り組む講師陣にも協力を仰ぎ、観光コンテンツとして「OK西東京」内でイベントを実施することにした。これまで個別に活動していた講師たちを「西東京市の文化資源」として位置づけ、地域の魅力を高めていこうと考えた。現在では、「和菓子&抹茶」「飾り巻き寿司」「筆文字」「つまみ細工」などの体験が可能であり、訪日外国人旅行者に向けた新しい価値を創出している。

その他、西東京市で活動する和太鼓ユニット「天翔(あまかける)」の取り組みにも注目し、地域として応援する体制が整いつつある。同ユニットには「和太鼓を通じて西東京市に人を呼び込みたい」という想いがある。補助金を活用することで、熱意ある団体の活動を観光資源として位置づけ、パンフレットや動画で紹介することが可能となった。地域と一体となった体制を整備し、その魅力を旅行者に確実に届けられるようになった。

<概算費用>

総事業費:約404万円 
そのうち補助金:約236万円 

<補助金・事業の活用スケジュール>

申請:2023年10月下旬
交付決定:2023年10月下旬
実績報告書:2024年5月
額確定:2024年6月
補助金受取:2024年7月

<効果>
固定観念に縛られない観光の価値観

つまみ細工ワークショップの様子

取り組みの効果は徐々に表れ始めている。パンフレットは2万部を印刷したが、現在、在庫が残り少なくなってきている。地元の中学校では授業での活用も進んでおり、観光地としては「西東京市には何もない」という固定観念が変わりつつある。訪れた人が楽しめる観光資源や、歴史的背景のある地域であることに、地元住民自身が気づき始めているのが大きな成果といえるであろう。

また、パンフレットや動画、WEBサイトをきっかけに来訪する観光客も見られるようになり、なかには外国人観光客の増加を実感している施設も出てきたとのこと。ホームページを経由した外国人からの問い合わせも、徐々に寄せられている。

観光案内窓口を運営する伊勢氏のもとには、外国人の方から「駅周辺で荷物を預けられる場所はあるか」「駐車場はどこか」など、観光に関連するさまざまな問い合わせが寄せられている。大型のコインロッカーは特に利用できる数が少ないため、伊勢氏はその問い合わせを受け、観光案内窓口で荷物を預かるサービスを開始した。こうした日常的なやり取りの中から観光に関する課題を発見し、観光案内窓口のサービスの拡充につなげている。

一般社団法人Hug&Yoga協会 伊勢 佳弥子 代表理事

「大きな観光施設や歴史的建造物が少ないからこそ、人そのものの魅力や、小さな場所の価値が際立つこともあります。地域に根ざし、日々を丁寧に暮らしている人々の存在こそが、何よりの観光資源なんです」と伊勢氏は語る。

「観光業は大きな観光施設や歴史的建造物がないと成り立たない」という固定観念を超え、地域にないものを補うのではなく、地域の人や場所の魅力など「すでにあるもの」に光を当てていく。それこそが、自分たちの町を伝えるという観光の原点ではないか。そうした想いが、伊勢氏の活動の根底にある。

現在では、市内の事業者も少しずつ動き出し、田無神社例大祭では、海外からのお客様のお神輿参加を受け入れるなど地域全体としての動きも見え始めている。観光案内窓口としての取り組みも続けながら、「せっかくなら、まだ西東京市を知らない誰かに、この町を好きになってもらいたい」。そんな想いを胸に、伊勢氏は今日も町の声を拾い続けている。