コロナ禍を経て、インバウンド需要に頼っていたゲストハウスを利用する宿泊客は大幅に減少した。予約サイトでたくさん並んでいる中から価格で選ばれる宿をやっていても事業は立ち行かない。事業を継続させるためには、宿泊施設に何度も通ってもらえるファンのコミュニティづくりが大切。しかしながら宿の運営やコミュニティづくりを体系的に学ぶ機会はほとんどなく、それができるスタッフもいない。そこで宿を運営している立場として、単に宿事業だけでなく日々の経験やノウハウを活かした新事業を検討し、ゲストハウスの運営やコミュニティづくりを学べる新サービスを始めたいと考えた。
「ゲストハウスをやってみたいという方の学びの場を作ることで、同じ思いの人を増やしていきたいと考えました。ゲストハウス経営に取り組みたいと思っても、運営やコミュニティ作りを学ぶ機会はほとんどありません。出店や運営ノウハウに関する動画コンテンツを作り伴走支援をすることで、こうした人たちの役に立ちたいと考えたのです」と柚木代表取締役は振り返る。
事例紹介
ゲストハウスの経営課題解決と人材確保に向けた「コミュニティプロデューサースクール」事業
~株式会社Little Japanの動画コンテンツ制作による新規事業に向けた取り組み
- 活用した支援メニュー(最新版)
- アドバイザーを活用した観光関連事業者支援事業 (令和7年度)
事業者情報
- 企業名
- 株式会社Little Japan
- 所在地
- 東京都台東区浅草橋 3-10-8
- HP
- https://littlejapan.org/

ゲストハウス、旅館、シェアハウス、コワーキングスペースなどの場づくり・運営を行う株式会社Little Japan。「誰かにとっての最高の場をつくる」をミッションに、リアルな施設の運営だけではなく、オンラインコミュニティなどのバーチャルな場づくりにも取り組んでいる。
日本橋の社会起業家向けのコワーキングスペース兼レンタルスペースである「ソーシャルビジネスラボ」や、まちに点在するシェアハウスを一つのシェアハウスに見立てた「まちごとシェアハウス」、越後湯沢でエリア全体の空き家を活用してまちづくりを行う「Little Japan ECHIGO」などを運営する。
さらに宿のサブスクリプション「Hostel Life(ホステルパス)」や、リアルとオンラインの双方でつながる仮想の実験都市「シェア街」にも取り組んでいる。
今回、新たにゲストハウスの人材確保に向けた事業「コミュニティプロデューサースクール」を開始した。補助金を活用した取り組みについて、同社の柚木理雄代表取締役にお話を伺った。
<補助金・事業を利用したきっかけ>
インバウンド需要に頼ることで問われた事業の持続可能性。新たな事業展開へ
<補助金・事業を活用した取り組み>
ゲストハウス開業の新たな支援の形「コミュニティプロデューサースクール」誕生
同社が立ち上げたのは、ゲストハウスの開業、運営・コミュニティづくりを学ぶ「コミュニティプロデューサースクール」。コミュニティ形成が得意な「株式会社はじまり商店街」の柴田大輔共同代表取締役がゲスト講師として、コミュニティづくりの専門家の立場で携わった。受講期間は1年間。3つの柱を軸に、ゲストハウスの立ち上げを考えている人たちに起業の支援を行っている。
3つの柱の1つ目は「各自の事業計画の実現を学ぶ伴走支援」だ。具体的には、受講生と個別に事業計画の作成や資金調達の方法、マーケティングについてオンラインで1on1を行ったり、受講生全員とクラス授業を行ったりしている。実際に物件を探すこともあるそうだ。
2つ目は「ノウハウを学ぶ動画講座」。今回申請した補助金の使用用途は、この2つ目の動画講座で使う動画の制作と、企画趣旨を伝えて受講生を募集する公式サイト制作に適用された。動画講座は、宿の立ち上げから運営の仕方まで学べる網羅的な内容で編集がされている。自分のペースで、いつでも、どこからでも繰り返し学べるスタイルが人気だ。
3つ目は「まちづくりコミュニティへの参加」だ。1年間の受講期間が終了後も、コミュニティの中で、相談し続けることができる仕組みを作った。集客や地域との関係性など、さまざまな課題が出てきた時に相談できる場を準備した。
「ゲストハウスを始めてみたいという人は多いのです。一方で事業開始から維持継続していくためにはファン作りや事業経営のノウハウを得ること、人材の育成が不可欠です。私たちはそうした課題解決に寄り添って行きたい」と、柚木代表取締役は話す。

<概算費用>
総事業費 :約310万円
交付決定額:約186万円
<補助金・事業の活用 スケジュール>
申請:2023年3月
交付決定:2023年6月
実績報告書:2024年5月
額確定:2024年6月
補助金受取:2024年7月
<効果>
起業から運営までを学ぶ場所も加え、自社の人材育成や採用も実現

「コミュニティプロデューサースクール」を立ち上げることで、どのような効果が生まれたのだろうか。柚木代表取締役はこのように話す。
「効果としては、今までなかったゲストハウスの起業から運営、コミュニティづくりについて学ぶ場所を作れたことのインパクトは大きいです。ゲストハウスを始めてみたい人たちに、新しい物件の探し方や資金調達方法など、起業に際して必要なノウハウを具体的に伝えられるようになりました。
さらに人材育成や採用の面でも一役買っていると思います。動画コンテンツは教育コストを下げることができ、 同一のサービスをしっかり理解してもらえる点がメリットです。ゼロから育成するよりも教育コストを下げられます」。
株式会社Little Japanでは、スクールの卒業生を採用することも視野に入れている。また未経験の人が入社してもこの動画教材が人材教育に役立つ見込みだ。
実際に、受講生による福島県での新しいゲストハウスの開業も間近に迫る。さらに滋賀県や福井県などでも、ゲストハウスの開業が続く予定だ。受講生同士のコミュニティを維持しながらそれぞれの場所でまちづくりが広がり始めている。
「それぞれの地域で宿を中心にしたまちづくりが広がっていくことが一番だと考えています。それぞれの場所で、それぞれの人たちがコミュニティを作り、まちづくりを進める文化を根づかせたい」と話す柚木代表取締役。Little Japanのそんな思いが実現し始めている。