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空港アクセスバスのバリアフリー化
~車いす用エレベーター付き車両を新規開発、リフト付き車両も導入

活用した支援メニュー(最新版)
観光バスのバリアフリー化支援補助制度(令和6年度)

事業者情報

企業名
東京空港交通株式会社
所在地
東京都中央区日本橋箱崎町22-1
HP
車いす用エレベーター付き車両に乗り込む様子

 羽田・成田の両空港と、首都圏各地とを結ぶバスを数多く運行する東京空港交通株式会社。457台の車両を保有し、1日に約1300便を運行している。
 同社は2016年から2019年にかけて「観光バスバリアフリー化支援補助金」を活用し、車いす用のリフト付き車両を12台、エレベーター付き車両を8台導入した。エレベーター付き車両は、3年の月日をかけてメーカーと新規開発した。熱意を持ってバリアフリー化に取り組んでいる。

<補助金・事業を利用したきっかけ>
東京2020大会を前に急ピッチのバリアフリー化

 同社では車いすを利用する乗客は決して多くなかったが、問い合わせコールセンターには時折、利用希望の連絡が入っていた。従来は車いすをトランクに預け、運転手や係員が介助して乗車してもらう、という対応を取ってきた。
 潮目が変わったのは2013年9月、東京 2020 オリンピック・パラリンピックの招致決定だった。車いすを利用する乗客の増加が見込まれるとして、2016年に東京都が新たに設けたのが「観光バスバリアフリー化支援補助金」。設備を多く備えるバリアフリー対応バスは、通常車両と比べて車両価格が跳ね上がる。この差額を補助金でまかなう制度で、導入へのハードルが大きく下がった。
 同社は制度がスタートした2016年に1台、翌2017年には2台のリフト付き車両導入に踏み切った。同時並行で、リフト付き車両の課題を洗い出し、それを解消できるエレベーター付き車両の開発を進めた。

<補助金・事業を活用した取り組み>
リフト付き車両の弱点克服 エレベーター付き車両も新規導入

    リフト付き車両のリフトを稼働させた様子
バス横のスロープから乗り込んだ後、車内をエレベーターで上昇する

 リフト付き車両は、車両の外にリフト部が2~3mほど張り出して昇降する。リフト床板が地面にべったりと接地するため、急なスロープをのぼる必要がなく、車いすでスムーズに乗降できるのがメリットだ。また、車いす利用者がいない場合は、通常と同じ座席数を確保することもできる。
 ただ、リフト付き車両は車いすを利用する乗客が1人乗車するのに早くても5分強、遅ければ10分以上の時間がかかる。雨の日はリフトがゆっくりと昇降する5分弱の間、利用者やバス車内が雨ざらしになって濡れてしまう。バス業界では、補助金制度のできる前から指摘されてきた問題点だった。
 また、リフトが張り出すため、バス横には6畳の部屋ほどの空間がないと使用できない。市街地ではこうしたスペースのない停留所や、雨よけの屋根が干渉して稼働させられない場所も多く、導入できる路線が制限されることもわかってきた。
 2015年秋、車両メーカーの三菱ふそう社から、エレベーター付き車両の開発構想を打診された。スロープでバス車内に乗り込んでから昇降する仕組みで、雨の影響も少ない。広いスペースがなくても乗り降りができるのではないかと可能性を感じ、共同開発することにした。
 翌2016年秋、最初の試作車が完成した。障がい当事者団体や現場の声などを集約して改良を重ね、2018年、足かけ3年でエレベーター付き車両が完成。エレベーターの設置により座席数は6つ減るが、素早く乗降できるメリットは車いす利用者にとっても、一般利用客にとっても大きい。その年に1台を導入、翌2019年には7台を導入した。

概算費用

通常車両との差額が補助対象経費
(導入当時においてリフト付き車両は1両あたり約400万円、エレベーター付き車両は約800万円)

補助金・事業の活用スケジュール

2016年度 リフト付車両1両導入
2017年度 リフト付車両2両導入
2018年度 リフト付車両4両導入、エレベーター付車両1両導入
2019年度 リフト付車両5両導入、エレベーター付車両7両導入

<効果>
誰もが使いやすいバスへ 心のバリアフリーにも積極的に取り組む

運行本部乗合・貸切事業部運行管理課
篠崎春輝 係長代理

 エレベーター付き車両の開発・導入で、狭いスペースでも車いすのまま乗降できるようになった。乗車にかかる時間も5分弱に短縮され、乗務員の負担も減った。また、歩くことはできるが階段の昇り降りが難しい高齢者からも、使用の希望が出るという。こうした使い方は当初想定していなかったというが「『誰もが使いやすい』のが真のバリアフリー」との思いから、これからも積極的に活用していく方針だ。
 リフト付き車両は、広いスペースが確保できる場所での昇降には向いているため、一部路線や貸切バスなどでは活躍している。状況に合わせて併用しているという。
 設備面だけでなく、接遇にも力を入れている。リフト付き車両を初めて導入した2016年から、全社員に車いす操作などを座学と実技で学ぶ研修を実施。毎年復習を兼ねた研修を重ね、コロナ禍以降は研修内容に触れたポスターを社内に掲示して、知識の定着を図っている。障がい当事者の声を聞く講習会も催し、よりよいサービスについて考える機会としている。
 車いすを利用する乗客は、コロナ禍の影響が長引いていることもあり、現在も決して多くはない。担当者の篠崎春輝さんは「現状、バリアフリー対応バスはダイヤのごく一部しかない。対応便数を増やして乗車機会を提供し、潜在的な需要に応えていきたい」と話す。