サントリー美術館は2007年、東京ミッドタウンが開業するタイミングで、赤坂見附から移転。2019年秋から、展示室の照明LED化や天井耐震化などのため、半年間のリニューアル工事を予定していた。
同館の矢澤滋人 運営総務担当部長によると、こうしたハード面の更新と同時に、インバウンド対策の必要性も感じていた。音声ガイドの言語別貸し出し状況から、当時は年間約30万人の来館者のうち5%程度が外国人客とみられていたが、東京 2020 オリンピック・パラリンピックに向けて大幅な増加が見込まれたためだ。
日本の古美術を多く収蔵する同館は、日本文化の発信地となるべく、パンフレットなどはすでに英語表記版を用意していた。しかし、さらなる国際化を進めるためには、美術館を外から一目見ただけでも「外国人に対して開かれている」という印象を与えなければならない。「美術館の顔」ともいえるエントランスの掲示物を2言語化することにした。
社内外の関係者と議論を重ね、日英2言語で案内を表示するデジタルサイネージと電子ペーパーの導入を決めた。また、同館が属するサントリー芸術財団の事務局からの提案を受けて、補助金活用の検討を始めた。
事例紹介
エントランスの掲示を日英2言語化
~館内案内用のデジタル機器を導入
- 活用した支援メニュー
- 美術館・博物館等の観光施設の国際化支援補助金
事業者情報
- 企業名
- サントリー美術館
- 所在地
- 東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
- HP
- https://www.suntory.co.jp/sma/

国際色豊かな街、六本木に位置するサントリー美術館。日本の古美術を中心に国宝1点、重要文化財15点を含む3000点余りを収蔵し、年5回程度の企画展を開催している。
同館は2019年秋から2020年春にかけて「観光施設の国際化支援補助金」を活用し、日本語・英語の2言語で館内案内映像を流すディスプレイ(デジタルサイネージ)と、来館者への注意書きを日英両言語で表示するデジタル看板(電子ペーパー)の2つの機器をエントランスに導入した。
<補助金・事業を利用したきっかけ>
東京 2020 大会に向け、インバウンド対策急務に
<補助金・事業を活用した取り組み>
2言語化で情報量が増えても、洗練された雰囲気はそのままに

©田山達之 画像の無断転載を禁じます
2言語化すると掲示する情報量は2倍になるが、「心を落ち着けて鑑賞してもらう」という美術館の特性上、注意書きを数多く掲示するのはノイズになる。かといって、周囲のインテリアに埋没し、守ってもらうべきマナーが来館者に伝わらなければ意味がない。
立て看板(サイン)は目を引きにくい上、日英2言語を併記すると字が小さくなり、さらに視認性が下がってしまう。そのため、日本語と英語が交互に表示できる電子ペーパーを採用。来館者が必ず通るチケットもぎり台(テイク台)の前面に取り付けることにし、テイク台を制作し直した。「飲食禁止」「お静かに」といった4つの注意事項が、10秒ごとに日本語と英語が切り替えて表示される
デジタルサイネージのサイズは65インチ。エントランス内の既存の柱に枠を取りつけ、ディスプレイをはめ込んだ。流れるのは、同館の入居する建物の外観や施設内の紹介動画をはじめ、呈茶席やミュージアムショップといった館内の施設写真とその説明文が2分程度にまとめられた映像だ。同じ構成の日本語版と英語版を、交互に上映する。映像は広告制作会社へ制作を依頼し、ビジュアルの美しさにこだわった。
同館は、入居する建物をはじめ、内装や細かい調度品に至るまですべてが建築家・隈研吾氏の設計によるもの。インテリアとしての統一感を大切にしたいとの思いもあり、今回の事業も隈氏の事務所に依頼した。同館の洗練された雰囲気に調和しつつも、来館者に訴求するデザインが完成した。
概算費用
総補助対象経費のうち、半額が補助金
補助金・事業の活用スケジュール
2019年2月 サントリー芸術財団から補助金活用の提案
2019年11月 同財団を通じて補助金を申請
※申請を前に、2019年7月には、同財団の事務局職員らと東京観光財団を訪問。日英の両言語が交互に表示される仕様であっても補助金の対象になることを確認した。3か月程度で必要書類をそろえて申請した。
2019年11月 リニューアル工事のため休館(半年間の予定)
2019年12月 基本図作成
2020年2月 設置完了
2020年7月 リニューアルオープン(コロナ禍により3カ月延期)
※申請やその後のやりとりについて、「必要に応じて書類をそろえるだけだった。おおむねスムーズに進んだ」と矢澤部長。
効果

矢澤滋人 部長
コロナ禍ゆえ、来館者からの直接の声が数多く届いたわけではなかったが、「エントランスの雰囲気がよくなった」と声をかけられることがあるという。矢澤部長は「美術館の洗練された雰囲気を大事にしたかった」といい、「補助金がなければこのクオリティにはできなかったかもしれない。ありがたかった」と話す。
2023年5月以降、同館では英語の音声ガイドの貸し出しが増えている。国際化された美術館として、多言語化やインバウンド対応にますます磨きをかけていくだろう。