魅力的なコンテンツを持つ武相荘だが、公開当初は積極的なPR活動をしなくても多くの来館者が訪れていたため、長年にわたって情報発信に力を入れてこなかった。
しかし、新型コロナウイルス感染症の流行以降、来訪者数が大きく落ち込み、効果的な情報発信と外国人観光客の受け入れ体制強化が急務となった。
特に、茅葺き屋根の葺き替えには膨大なコストがかかり、町田市からの補助があっても負担は大きく、来場者数を増やして収益を確保することが大きな課題となっていた。
運営する株式会社こうげいの牧山圭男氏としても、「白洲夫妻が築いた価値観や空間の質を大切にしながら、その理念に沿った広報の方法を見つけたい」と考えていた。こうしたなかで活用した補助金の取り組みについて、牧山氏にお話を伺った。
事例紹介
動画制作と多言語化対応による「武相荘」の情報発信
〜町田市指定文化財・白洲夫妻ゆかりの邸宅を周知する取り組み
- 活用した支援メニュー(最新版)
- 美術館・博物館等の観光施設の国際化支援補助金(令和7年度)
事業者情報
- 企業名
- 株式会社こうげい(旧白洲邸 武相荘)
- 所在地
- 東京都町田市能ヶ谷7丁目3番2号
- HP
- https://www.buaiso.com/
東京都の多摩地域南西部に位置する町田市は、都心や八王子、横浜方面へ電車で約30分というアクセスの良さが特徴だ。小田急小田原線「鶴川駅」周辺は、暮らしに便利な商業施設が立ち並ぶ一方、少し歩くと落ち着いた住宅街と豊かな自然が広がっている。
この自然豊かな地に、ミュージアムやレストランとして利用できる施設「武相荘」がある。かつて戦後日本の復興において活躍した白洲次郎と正子夫妻が居住していた場所で、1942年、白洲次郎が東京郊外の鶴川村で茅葺きの古民家を購入したものである。
敷地内には、白洲夫妻が実際に生活していた当時の調度品や、日本の歴史を振り返る貴重な文物が展示されており、特に注目すべきは、かつての交渉相手であるGHQのマッカーサー元帥に贈った白洲次郎がデザインした椅子のレプリカなどだ。
西洋文化と日本の田舎暮らしを融合させた独自の美学が凝縮されたその場所を、白洲次郎が「武相荘」と名付けた。今では町田市の貴重な観光資源として注目されつつあり、雑木林に囲まれた静かな場所で、併設する「Restaurant & Cafe 武相荘」では食事や休憩を楽しむことができる。また、庭園の入場も可能で、四季折々の草木を楽しめるよう散策路も整備されている。
GHQとの交渉で対等に渡り合い「従順ならざる唯一の日本人」と言わしめた白洲次郎であるが、ケンブリッジ大学への留学で培った英国流の洗練された立ち振る舞いと、日本人としての気骨を併せ持つ「粋な人物」として知られ、戦後日本において数々の名車を愛したことでも有名であった。
一方の妻の白洲正子は随筆家として活躍し、町田市の名誉市民にもなっている。夫妻は共に様々な文化的活動に関わり、日本文化の保存と発展に貢献した。
<補助金・事業を活用したきっかけ>
町田市にある貴重な文化財を広めたい
<補助金・事業を活用した取り組み>
国内外の観光客に武相荘の魅力を広める取り組み
武相荘では、保存・活用・将来への継承を視野に入れて、企画担当者を起用し、民間企業との観光振興に関する業務提携契約を締結した。施設の認知度向上や、海外からの訪問者への多言語対応など、受け入れ体制の整備を推進していった。
その過程で、施設の料金改定と同時に、敷地内の案内表示を多言語化する話が持ち上がった。そこで「美術館・博物館等の観光施設の国際化支援補助金」を活用し、案内表示のリニューアルと共に、武相荘を解説するPR動画を制作することになった。
武相荘の解説動画は、業務提携した企業と協力して制作し、これまで施設全体を紹介する基本的な動画がなかったため、施設の背景や魅力を伝える内容とした。
制作は、モノクロ写真のカラー化やドローン撮影なども行い、単なる建物や外観の紹介だけでなく、白洲夫妻の歴史や功績をドキュメンタリー風に紹介した内容も織り込んだ。人物や時代背景を伝える構成にし、さらに、訪日外国人旅行者にも理解しやすいように英語訳も掲載した。
多言語案内表示の整備は、料金改定に合わせて、入場料を支払う場所での案内表示と館内案内を整備した。これまで英語の案内表示が一切なかったため、外国人来場者にも対応できるように多言語表記を追加した。
<概算費用>
総事業費:約280万円
そのうち補助金:94万円
<補助金・事業の活用スケジュール>
申請:2024年11月
交付決定:2025年1月
実績報告書:2025年4月
額確定:2025年5月
補助金受取:2025年6月
<効果>
案内表示や動画を活用して魅力を広め、貴重な文化財を次世代へつなげる
これらの取り組みを通じて、武相荘は想定していなかったインバウンドの観光客にも対応できる多言語案内を整えることができた。
日本の古き良き文化や歴史を伝えられる白洲夫妻の生きた空間をそのまま残すことで、訪れる人々にその息遣いを感じてもらえるようになった。この文化財が持つ様々な魅力と文化的価値に注目し、改めてその魅力を発信する活動は、まだ始まったばかりだ。
今後、制作した動画はWebサイト上で公開するなど、世界中の方々に向けた広報活動に活かしていく予定だ。過去の日本人の生き様や豊かな感性だけでなく、日本の歴史を次の世代につなげる武相荘の取り組みに、今後とも期待が寄せられている。牧山氏は「これからも白洲の思いを継承していければ幸いです」と締めくくった。