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高付加価値化によって、海外からの旅行者に選ばれる店に
~鮨を通じて日本文化を発信する松乃鮨の取り組み

活用した支援メニュー(最新版)
観光関連事業者のDX・経営力強化支援事業補助金(令和7年度)

事業者情報

企業名
株式会社松乃鮨
所在地
東京都品川区南大井3-31-14
HP
ゲストを誘う石畳の路地

古くから江戸前の海の幸に恵まれ、我が国で初めて本格的に海苔の養殖が行われた大田区・大森海岸に株式会社松乃鮨はある。明治43年(1910年)の創業以来、115年超の歴史を誇る松乃鮨は、歴史を受け継ぎながら革新的なチャレンジも行う老舗として名が通る。今では親から子、そして孫へと、世代を継いで通う顧客も多いという。一方で、フルオーダーまたはカスタマイズされたケータリングや海外の出張握りにも対応。欧米各国をはじめとして、シンガポール、カタールなどで鮨の魅力をライブで伝えてきた。英国のバッキンガム宮殿でチャールズ皇太子に鮨を披露したり、G20大阪サミットでは「鮨を通じたおもてなし」の企画を担当したりと、その活動はグローバルだ。「鮨を通じて日本文化を伝える」取り組みを続ける松乃鮨の四代目手塚良則氏に、お話を伺った。

<補助金・事業を利用したきっかけ>
日本文化を深く味わいたい訪日ゲストに、特別な日本体験を届けたい!

国内外の大学で異文化コミュニケーションを培い、50カ国以上の国々を旅した経験を持つ手塚氏。旅行会社勤務や欧米でのプロスキーガイド、富裕層向けのツアーガイドを通して、観光客のニーズに応える海外のサービスレベルの高さを体感してきた。とりわけスイスやイタリア、フランスなどの観光立国では、自国の文化のプレゼンテーション力が高く、観光客を喜ばせることに極めて長けているという。インバウンド向けの多言語メニューや、ベジタリアン、ハラール対応なども一般的だそうだ。

手塚氏のこうした知見を活かし、松乃鮨では日本文化を深く味わいたい訪日ゲストである外国人顧客向けに、日本でしか味わえない特別な日本文化・食文化の体験を提供している。鮨ネタの仕入れから体験できる「市場ツアー」や「お鮨の握り体験」など、独自のサービスを用意。ゲストの一生に一度の思い出として刻まれる、唯一無二の体験価値を提供している。

手塚氏は、「鮨を通じて日本の文化を発信する世界観の構築と店舗の収容人数の拡大を、かねてから実現したいと思っていました。世界観の構築の一つとしては、ヨーロッパの5つ星ホテルで既に行われている様なキッチンツアーを行い、その地域の文化を深く理解してもらうことのできる空間づくりをしたかったのです」と補助金を利用したきっかけを話す。

<補助金・事業を活用した取り組み>
「鮨×伝統文化×空間演出」で魅せる、“和のエンタメ”体験

松乃鮨では店舗のエントランスや中庭、2階のべランダを整備し、収容人数を拡大した。さらにインテリアには地域由来の骨董品を配置し、伝統工芸品の江戸切子で日本酒を提供するなど、伝統的な日本文化を感じる空間づくりを行いながら、調理場も「魅せる」ためのコンテンツとして、オープンキッチンを整備した。また、芸者の踊りを楽しんでもらうための舞台や、ガーデンパーティーを行える庭もしつらえた。

「私たちが行っていることは、『鮨を通じて伝統的な文化や地域の文化に触れるエンターテイメント』なのです」と話す。

新たに整備された店舗は来店者数がアップした。同時にゲストと一緒に写真に写る機会も増え、コミュニケーションも活発になった。結果的に、若手スタッフの積極的な活躍の場として、技術・パフォーマンス向上の場にもなっている。

風格のある松乃鮨のエントランス
中庭に接したオープンキッチン
2階座敷のベランダにも庭を整備。宴会ではライブキッチンとして活用
中庭を整備し、日によっては芸者が踊るステージを設置

<概算費用>

総事業費:約2,913万円
そのうち補助金:1,500万円

<補助金・事業の活用スケジュール>

申請:2023年7月
交付決定:2023年9月
実績報告書:2024年8月
額確定:2025年1月
補助金受取:2025年2月

<効果>
空間整備で売上約20%増。“鮨体験”はSNS映えも好調

株式会社松乃鮨 四代目 手塚 良則 氏

施設整備を行って視線が自然に集まる場所をつくったことで、東京の文化に触れる会話が生まれるようになったという。
「ご来店いただいた際、お客様から『このインテリアの調度品は何に使われていたものですか?』『建物の素材は何?』といったご質問をいただく機会が増えました。こちらから語らずとも、東京の文化的背景を自然とご紹介できる場面が増え、本物志向のお客様の満足度が非常に上がりました。結果として顧客単価にも良い影響がありました」。

また、スタッフのモチベーションも明らかに上がったと話す。日本文化を深く味わいたい外国人顧客と一緒に写真に写る機会が増えたため、「見られること」を常に意識するようになり、結果的にサービスレベルが向上したことも大きな変化だ。

こうした、伝統や地域の文化に基づいたストーリーの積み重ねが、松乃鮨の価値を底上げしている。

「補助金の支援があったことで兼ねてから実現したかった施設の整備ができました。施設の魅力、そして鮨文化を伝えやすくなったことで高付加価値化が実現し、収容人数も増えたことで売上は約20%アップし経営力も強化されました。海外のお客様からの『驚きと賞賛』の声も増え、SNSでの投稿も目に見えて増えていると感じます」。

松乃鮨は、日本文化を深く味わいたい訪日ゲストの体験価値を向上し、鮨を通じた日本文化の発信に貢献している。