萩山駅から徒歩4分に位置する小平市立萩山公園は、駅の近くの好立地ではあるが、プールの裏手にある奥まった場所にある。1968年の開園からおよそ60年が経っているが、地域の住民の中にも、その存在を知らない人が多かったという。
園内にはイロハモミジが100本以上植えられており、秋には色鮮やかな紅葉が広がる。しかし、公園というよりも庭のような空間であり、これまで同公園の紅葉が観光資源として発信される機会はなく、地域にとっても埋もれた景観のひとつであった。
「せっかくの紅葉を、地域の人にもっと楽しんでもらえる方法はないだろうか」との声が次第に上がるようになり、方法を検討することとなった。話し合いを重ねる中で、萩山公園は街灯や車のライトの影響を受けにくい落ち着いた環境にあることから、紅葉のライトアップという形でこの場所の魅力を伝える案が上がった。
同協会では、過去に狭山・境緑道あじさい公園付近、たけのこ公園沿道、狭山・境緑道の桜をライトアップし、春の風景を活かした観光事業を補助金で展開した実績がある。そうした経験も後押しとなり、令和5年度に「秋のライトアップモデル事業費助成金」の申請をすることとなった。
事例紹介
紅葉ライトアップで公園が変わる、地域の新名所づくり
~眠っていた魅力を、光で引き出す挑戦
- 活用した支援メニュー(最新版)
- 秋のライトアップモデル事業費助成金(令和7年度)
事業者情報
- 企業名
- 一般社団法人 こだいら観光まちづくり協会(小平市立萩山公園)
- 所在地
- 東京都小平市学園東町1-16-1
- HP
- https://kodaira-tourism.com/

一般社団法人こだいら観光まちづくり協会は、小平市の自然や文化を観光に活かしながら、地域の魅力発信に取り組んでいる。ブルーベリー栽培発祥の地としても知られる小平市は、都心から電車で約30分とアクセスが良く、緑豊かなまちなみも有していることが特徴だ。
同協会ではこれまで、「こだいらブルーベリーマップ」や「小平丸ポストマップ」、「小平のうどん文化ガイド」などの観光コンテンツを数多く制作してきた。取り組みには、訪れる人に楽しんでもらうことはもちろん、地域の人にもまちの魅力を再発見してほしいという思いがある。
その取り組みの一環として、同協会では、「秋のライトアップモデル事業費助成金」を活用し、令和5年度から小平市立萩山公園でライトアップイベントを行っている。今回は、小平市立萩山公園でのライトアップ事業について、一般社団法人こだいら観光まちづくり協会の出口拓隆事務局長、広報・企画担当北山美穂氏に伺った。
<補助金・事業を利用したきっかけ>
認知されていなかった紅葉を観光資源に

<補助金・事業を活用した取り組み>
「来てくれた人に喜んでもらえる空間をつくりたい」と試行錯誤を繰り返す

北山氏が補助金申請を担当し、補助金は照明機材の購入費や、演出を手がけたデザイナーのデザイン費、さらに告知のための広報費として活用された。
ライトアップの演出はデザイナーに依頼し、行燈を用いて、モミジの木の下から暖色の光で照らす幻想的な空間が実現した。
「デザイナーとやり取りする中で、イメージ図だけでは完成後の全体像がわからずに不安がありました」と語るのは、企画を担当した北山氏。
手探りで進めた準備の中でも、「せっかくなら来てくれた人に喜んでもらえる空間をつくりたい」という思いを胸に、イメージ図を読み解きながらデザイナーとの対話を進めていった。
令和5年度の初回ライトアップは、当初11月11日から26日までの開催を予定していたが、初開催だったこともあり、紅葉の見頃の予想が難しく、当初の期間とずれが生じてしまう。そのため、期間を約1週間延長することとなり、結果的に約1か月にわたる開催となった。
駅でのポスター掲出に加え、紅葉を題材にした俳句をInstagramで募集するなど、広報にも力を注いだ。しかし、初年度の来場者数は2000人に届かず、成果は限定的だった。
キッチンカーも出店されたが、人通りは少なく、期待していたほどのにぎわいは見られず落ち込む北山氏。しかし、「地元を盛り上げたいので、また来年も出しますよ」と出店者から温かい声が届き、その言葉に励まされた北山氏は次年度への準備を前向きに進めていった。
2年目の令和6年度は、ライトアップのバージョンアップのため、照明の配置や照らし方を再調整した。また、初年度の反省を活かし、期間も紅葉のタイミングに合わせて、11月23日から12月8日とした。
広報面では、西武鉄道の沿線43駅にポスターを掲出し、公園までの経路がわかるよう、沿道には案内用ののぼりを設置。コンテンツ面では、白梅学園で保育を学ぶ学生たちが、子ども向けの遊びコーナーを企画してくれた。さらに、公園内で糸あやつり人形の上演を実施するなどのイベントも盛り込んだ。「多くの方々に楽しんでもらいたい」という思いがかたちになり、2年目の来場者数は初年度を上回る約3000人を記録。交渉や準備、調整業務は北山氏が主導した。
<概算費用>
総事業費:約284万円
そのうち補助金:約234万円
<補助金・事業の活用スケジュール>
申請:2024年7月
交付決定:2024年10月
実績報告書:2024年12月
額決定:2025年1月
補助金受取:2025年2月
<効果>
訪れた方の満足度は高く、リピーターも続出


ライトアップの期間中、同協会のメンバーはできる限り現地に足を運んだ。園内には「きれいだね」「東京じゃないみたい」といった声が自然と響き、その場に居合わせたことで、訪れた人たちの表情や反応を間近に感じ取れた。
地域の人はもちろん、西武線沿線から訪れた人、写真を撮りに来た人、家族連れの人など、さまざまな層の人々が、静かな光に照らされた紅葉を楽しんでいたとのこと。
「小中高生の若い世代にこそ、小平の良さを伝えていきたい。一人でも『小平っていいまちだな』と思ってもらえたらうれしいし、その子たちがいつか大人になったときに、小平に戻ってきてくれたらと思っています」と語る出口事務局長。
北山氏は、「初年度に来てくれた方が、翌年も足を運んでくれた。あのとききれいだったよ、と誰かに伝えてくれたことで広がっていった」と振り返る。口コミがじわじわと届いている実感があり、期間中に何度も訪れるリピーターも実際にいたらしい。
無名だった公園が、少しずつ観光資源としての認知を広げていき、日中のイベントに来られない層の方々が、仕事帰りに紅葉を楽しみながら癒されている姿は、同協会のメンバーの励みにもなった。
ライトアップの取り組みは、令和7年度で3年目を迎えることとなる。3年間の継続的な補助金支援があることで、試行錯誤を重ねながら少しずつかたちにしていくことができている。
「1年きりでは終われないですね。改良を重ねる時間をもらえたことが本当にありがたいです」と北山氏は語る。
「この補助金がなければ、ライトアップという選択肢は現実的ではなかったと思います。けれど、光をテーマにしたイベントは、季節に関係なくまちづくりに使えるんです。光を活かしたまちづくりは、小平というまちのイメージアップにもきっとつながっていくはずです」と出口事務局長が笑顔で今後への展望を語った。