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郷土料理の調理体験で島文化を体感
~新島の新たなアクティビティへ 厨房を整備

活用した支援メニュー(最新版)
宿泊施設活用促進補助金

事業者情報

企業名
島宿 治五平
所在地
東京都新島村本村5-2-8
HP
郷土料理の調理体験を開催するために改修した厨房

 伊豆諸島の一つである新島は、都心から南に約160kmの距離に位置し、夏場は美しい海を目当てに訪れる海水浴客やサーファーなどで賑わう。島宿 治五平は、昭和初期に下宿としてスタートし、のちに民宿に形態を変えて宿泊業を営んできた、新島でも指折りの老舗宿だ。
 同宿は2023年、「宿泊施設活用促進補助金」を活用し、宿泊客向けに郷土料理の調理体験を開催するために厨房を改修した。

<補助金・事業を利用したきっかけ>
夏場以外のアクティビティ創出へ 島料理の調理体験

 新島周辺では10月以降、西からの季節風が強まり、主な観光資源である海が荒れ、海水浴客やサーファーが減る。マリンレジャー以外のアクティビティが少なく、夏場でも雨天時などは時間を持て余してしまう宿泊客が多かった。せっかく訪れた島を楽しんで帰ってほしいという思いから、同宿の出川昌子オーナーが思いついたのが、自身が講師役になって郷土料理の調理体験を提供することだった。
 同じ新島村の式根島では真鯛の養殖を行っており、参加人数に応じて様々な大きさの鯛が一年中手に入る。魚をさばいたことのない人の多さに着目し、アクティビティとして提供してはどうかと考えたという。新鮮な鯛は、刺身や鯛ご飯、煮つけなど、多彩な形に調理できる。
 郷土料理の目玉は、新島では「たたき」と呼ばれる魚のすり身だ。油で揚げたり、つみれのように汁物に入れたりして食べる。重曹を入れるのが“新島流”で、加熱すると風船のように大きく膨らむ。出川オーナーは「驚いてもらえるし、見た目にも楽しい。思い出作りには最適」と話す。その他にも明日葉やアメリカ芋など、島特有の食材もある。
 同宿の厨房は、少なくとも30年ほど前から改装などをしておらず、狭く暗かったこともあり、調理体験を提供することは難しかった。「とてもお客さんに入ってもらえるような状況ではなかった」と出川オーナー。また、火や刃物を扱う調理体験では、安全面への配慮も欠かせない。参加者が安全に調理体験を楽しめる明るい空間にしようと、同補助金の補助対象事業の一つ「ひとつのエリアに滞在し、自然や文化等を体感・体験する観光を提供するための事業」として、2022年11月に申請した。

<補助金・事業を活用した取り組み>
安全面・衛生面に配慮 明るく一新

参加者の安全面に配慮し、レールライトを取り入れた厨房

 厨房は、通常の宿泊客用の食事を準備する場所でもある。申請に際して保健所に確認したところ、「調理体験で作っていいのは自分が食べるものだけ。他の宿泊客に振舞わなければ問題ない」旨や、専用の手洗い場があることなどを条件に許可が下りたという。誤って他の宿泊客への食事に混入しないよう、通常の食事準備とは時間を空けて調理体験を行うことにした。
 参加者が立ち入る床や、天井・壁は全面的に張り替え。壁は白の化粧板を採用してモダンに、床と天井は木目調でナチュラルな雰囲気を取り入れた。料理に不慣れな参加者も安全に作業できるよう、照明は手元を明るく照らし、位置が自由に変えられるレールライトを導入した。また、調理体験でも利用するガステーブルや赤外線グリル、冷凍冷蔵庫、製氷機などの厨房機器も更新。最大6人程度の受け入れを想定し、参加者同士がぶつかり合わないように広い空間を取るため、小型化できる機器は小さなものを選んだ。
 さらに、衛生面を考慮して、2つの作業台も天板が化粧板のものに入れ替えた。除菌アルコールなどの薬剤に強いためだ。一方は調理作業用に、もう一方は料理の盛り付け用にと用途を割り当て、参加者が多くても厨房の隣にある食堂までスムーズに食事を運べるよう、動線を意識して配置。作業台下には食器などを収納できる棚があるほか、常温保存できる食材などを保管しておく8平米ほどの食品庫も設けた。収納を増やして、調理に関係ない物品が作業スペースにはみ出ないように工夫し、作業スペースをこまめに拭いて衛生環境を保てるようにした。
 船で機器類や備品を取り寄せるために時間がかかるなど島しょ部特有の事情もあったが、工事そのものは3週間程度で終了。その間は素泊まりの宿泊客を多めにするなどの調整をしたという。

<概算費用>

総事業費約890万円  そのうち補助金約500万円

<補助金・事業の活用スケジュール>  

申請:2022年11月
交付決定:2023年2月
実績報告提出:2023年7月
額確定:2023年10月上旬
補助金受取:2023年10月下旬

<効果>
すでに予約も 島の新たな魅力に育てたい

島宿 治五平 出川 昌子 オーナー

 新たな試みとして、2023年11、12月にはそれぞれ1日ずつ、調理体験付き宿泊プランを設定した。同宿のサイトでPRしたところ、既に予約が入ったという。2024年以降も定期的に開催する予定だ。
 同宿は2021年にも、新島で初めて客室をバリアフリー化するために大きな工事を行っている。出川オーナーは「評判が評判を呼び、年を追うごとに稼働率が上がっていった」とリニューアル後を振り返り、調理体験も徐々に口コミで人気が広がっていくのではないかと期待を寄せる。新島の新たな魅力として育てていく決意だ。