同ホテルでは開業以来40年以上、客室にシリンダーキーを採用していた。ホテルを運営する有限会社蓼科荘の柳澤伸雄代表取締役によると、従来のシリンダーキー方式はフロントでの鍵の受け渡しや管理の手間、紛失時のセキュリティー面などに課題があったという。ホテルの玄関は深夜1時から早朝5時まで施錠しており、この時間帯に宿泊客が入館するには玄関先のチャイムを鳴らし、当直のフロントスタッフを呼び出して鍵を受け取る必要があった。また、コロナ禍以前に宿泊客の3~4割を占めていた外国人観光客が、客室の鍵を常に持ち歩きたがる傾向に柳澤代表は着目した。「(コロナ禍を経て)インバウンドが復活した際には、カードキーというシステムの方がお客様にとって絶対にプラスになるはずだ」と実感していた。シリンダーキーに比べて複製が困難な点も、導入の理由の一つだった。
宿泊客の利便性向上や業務の省力化に向けて動き出す中、取引先の金融機関を通して「観光事業者のデジタル化促進事業補助金」を知り、2022年6月に申請した。
事例紹介
スマートロックシステムの導入で入退室や情報管理をスムーズに
~利便性向上で宿泊客と従業員の負担軽減
- 活用した支援メニュー(最新版)
- 観光事業者のデジタル化促進事業(令和6年度)
事業者情報
- 企業名
- 有限会社蓼科荘(ホテルたてしな)
- 所在地
- 東京都新宿区新宿5-8-6
- HP
- https://tateshina.co.jp/
<補助金・事業を利用したきっかけ>
手間のかかるシリンダーキー 利便性向上と省力化がカギ
<補助金・事業を活用した取り組み>
カードキーやホテル管理システムとの連動、客室ドアのオートロック化で入退室の環境を一新
補助金の交付決定後の2022年11月、客室ドアのオートロック化を実施し、約1週間で全67室分の工事が完了した。ホテル出入口の自動ドア横にもカードキーをかざすセンサーを取り付け、深夜や早朝の施錠時間帯でもフロントを通すことなく気軽に出入りできる仕組みを整えた。
カードキーは500枚手配し、新たに導入したホテル管理システム(PMS)ソフトとの連動を通して宿泊客の情報をキーに紐づけられるようにした。システムの一部であるカードリーダーにキーを置くと、宿泊客の部屋番号や宿泊日数、有効期限などの情報を紐づけできる仕組みで、フロント業務の効率化につながった。
カードキーや情報管理システムの導入、工事など一連の取り組みに当たっては、各種出入管理装置の製造販売を手掛ける会社やシステム開発業者、自動ドア業者に依頼した。
こうして同年12月、カードキーの使用が始まった。
<概算費用>
総事業費 約544 万円 そのうち補助金 約330万円
<補助金・事業の活用スケジュール>
申請:2022年6月
交付決定:2022年8月
オートロック化工事、PMSソフト導入など:2022年11月
実績報告提出:2022年12月
額確定:2023年1月
補助金受取:2023年2月
<効果>
宿泊客も従業員もストレスフリー より便利で安心・安全な施設に
カードキーの導入により、宿泊客の利便性や従業員の業務効率の向上に顕著な効果が見られた。宿泊客はフロントでのチェックイン時に一度カードキーを受け取ると、以降はチェックアウトまで出入りの度にフロントに立ち寄る必要がなくなった。シリンダーキーと違い、1部屋2名以上での利用時に人数に応じた枚数を用意できるのもカードキーのメリットだ。施錠時間帯の出入りについては、玄関先のセンサーにかざすよう宿泊客に事前に説明をすることで、従業員が都度解錠する手間が省けた。客室のドアもオートロックにしたことで、入退室の利便性向上とセキュリティーの強化を実現した。
柳澤代表は「お客様にも従業員にも、安心・安全でストレスフリーな環境になった。本当にやって良かったと思う」と手ごたえを語る。外国人宿泊客の割合もコロナ禍前と同様の3~4割ほどに回復(2023年10月時点)し、カードキーにしたことで客室の鍵を携帯したいニーズにも応えられているようだ。今後も宿泊客のニーズに合わせた細やかなホスピタリティーやサービスを届けながら、ハード・ソフトの両面でより便利かつ快適なホテルづくりに向けて取り組んでいくという。