事例紹介

　同社の湯本智之代表取締役によると、コロナ禍ではそれまで来場者の半数を占めていた外国人客の姿が消え、日本人の家族連れが主な客層になっていたという。当時の入場料は、大人１人1650円。ただ、１日に受け入れられる人数には限界があり、施設の売上増加につなげるためには客単価の向上が大きな課題となっていた。
　2022年夏頃、湯本代表は東京都主催のインバウンド関連事業者向け勉強会で「アドバイザーを活用した観光事業者支援事業補助金」の存在を知った。訪日客の回復を見据え、客単価アップの施策につなげようと補助金を申請した。

　東京観光財団が派遣したアドバイザーはインバウンドビジネスに精通したコンサルタントで、YouTube・TikTokでの動画によるプロモーションや、忍者を題材にしたアニメ作品の海外人気を背景にした新しい体験プログラムの導入など、施設の魅力を高めるアイデアを提供した。
　湯本代表はアドバイザーの助言をもとに、YouTube用に15本、TikTok用に6本の施設紹介動画を、映像制作会社と協力して制作した。「家族で楽しめるという点をいかに動画で伝えるか」を主眼に置き、モデルに出演依頼し、親子連れの設定で手裏剣投げや剣術を楽しんでもらい、その様子を撮影。オリジナルのアニメーションも取り入れるなど、短い尺で体験プログラムの魅力を楽しく伝える映像を作り上げた。音声は日本語で、場面によってポップな印象の英語テロップが入る。湯本代表は「『やってみたい』という動機付けにつながるシーンを選ぶのが大変。編集は根気と時間の要る作業だった」と苦労を語る。2023年2月上旬、施設のサイト上などで動画を一斉に公開した。
　時期を同じくして、世界的人気を誇るアニメ作品に登場する忍者道具の一種「クナイ」を的に向かって投げる体験プログラムも新たに導入した。作品の世界を感じられる楽しみを増やしたほか、施設の雰囲気と調和する備品もそろえた。
　大人1人当たりの入場料は、以前の約2倍となる3200円に設定。「動画のインパクトがあるから来てもらえるはず」と自信を持って春を迎えた。

総事業費　約214万円　　そのうち補助金　約146万円

アドバイザーからの助言を受ける※2022年8月
申請：2022年9月上旬
交付決定：2022年9月下旬
動画の公開：2023年2月
実績報告提出：2023年4月
額確定：2023年5月中旬
補助金受取：2023年5月下旬
　※東京観光産業アドバイザー派遣制度

　インバウンドの順調な回復に加え、動画や新たな体験プラグラムの相乗効果もあってか、2023年の春休みシーズン以降は欧米系を中心に再び多くの外国人来場者で賑わうようになった。特に６月から８月の夏休みシーズンは多忙を極め、客対応に追われ「いっぱいいっぱいだった」という。２月から７月末までの間に計45か国から来場者があり、施設の売上増加につながった。
　アドバイザーを活用した補助金について、湯本代表は「金銭面でのリスクを極限まで抑えながら、新しい視点から施設のクオリティを上げるとても良いきっかけになった」と振り返る。手続きに関しても「申請から取り組み後の報告書提出までスムーズにでき、不明な点も電話ですぐに解決できたので助かった」と話す。
　オンラインとリアルの両面で魅力的なコンテンツ作りに励み、アフターコロナのインバウンド集客に成功した「手裏剣道場　新宿忍者からくり屋敷」。今後も日本ならではの体験メニューで、多くの外国人観光客を魅了し続けるだろう。