同協会が助成金の情報をキャッチしたのは、2022年夏。同じ葛飾区内の観光地・堀切菖蒲園で前月に開かれたライトアップイベントをプロデュースした照明会社から、例年、夏に同助成金の募集が始まることを聞いた。東京観光財団のプレスリリースをこまめにチェックしていたため、7月中旬の募集開始をいち早く知ることができた。
京成電鉄柴又駅から帝釈天までを結ぶ200mほどの参道は、商店街として35軒ほどの店が軒を連ねており、多くの観光客でにぎわう。一方、山本亭や柴又公園まで行くには住宅街を200mほど通り抜ける必要があり、足を延ばす人は多くない。自然が残り、秋の光景は特に趣があることから、帝釈天と参道に続く「柴又の第三の観光スポット」として魅力を発信しようと、同協会青年部が中心となって申請することにした。
事例紹介
山本亭・柴又公園で紅葉ライトアップイベント
~柴又第三の観光拠点へ、夜の魅力も発信
- 活用した支援メニュー(最新版)
- 秋のライトアップモデル事業費助成金
事業者情報
- 企業名
- 葛飾区観光協会
- 所在地
- 東京都葛飾区柴又6-22-19
- HP
- https://katsushika-kanko.jp/index.html

映画「男はつらいよ」の舞台として知られる葛飾区柴又。明治・大正期の雰囲気を色濃く残す街並み等の景観は、2018年には国の重要文化的景観に都内で初めて選ばれた。帝釈天と参道を中心として、大正から昭和初期にかけて増改築された邸宅「山本亭」が海外誌による日本庭園ランキングの上位に入るなど、都内でも指折りの観光地だ。
葛飾区観光協会は2022年、「秋のライトアップモデル事業費助成金」を活用し、11月末~12月初めにかけて山本亭と柴又公園の一部でライトアップイベントを開催した。
<補助金・事業を利用したきっかけ>
柴又の第三の観光拠点へ
<補助金・事業を活用した取り組み>
地元の協力を得て 観光客にも好評


イベント成功のためには、地元の協力が欠かせない。帝釈天や参道と比べて知名度が低い会場周辺まで人を呼ぶためには、参道の商店街の店を、イベント終了時刻の20~21時ごろまで開けてもらう必要があるからだ。営業時間延長に見合うだけの集客を図るため、PRもしなければならない。地元警察や消防への連絡も必要になる。同協会は過去にも、帝釈天でのプロジェクションマッピングや盆踊りといった夜の行事を開催してきたため、こうした事前調整の必要性を強く感じており、事前に準備できることは、前倒しで準備に取り掛かった。参道商店街「神明会」などから集めたメンバー30人ほどからなる実行委員会を、同協会理事会の中に設置。イベントまでに2回会合を開き、地元の協力を仰いだほか、PR施策を練った。
交付が決定したのは10月に入ってからで、イベントまで残された時間は1カ月ほどだった。京成電鉄の金町~押上駅間にポスターを貼ったほか、SNSなどでもPRしたが、実行委員メンバーで参道商店街会長の石川宏太さんによると「たとえば区内の他のイベント時にポスターを貼っていたら、さらに広報効果があったはず。もっと準備期間があればよかった」と振り返る。
同協会では、会場の準備も並行して進めた。会場となった柴又公園の一部と山本亭の敷地面積は、合わせて8000平米ほど。照明会社の下見から、計73基のLEDライトを設置することにした。山本亭には12本、柴又公園には5本のモミジの木が点在する。モミジには赤い光を当てて個々の木を引き立て、会場の動線は温かみのある白に、柴又公園内にある「葛飾柴又寅さん記念館」は紫や青の光でライティングすることになった。秋の夜の風情を静かに楽しめる空間になった。
期間中はサッカーW杯の日本代表戦放映と重なる日や、雨で気温の低い日など、想定以上に集客できなかった日もあったが、同協会の佐々木初代主任によると、訪れた人からは「こんなにきれいな場所があったの?」「夜の柴又も意外といい」といった声が聞かれたという。
概算費用
照明機材の購入費用など約600万円
補助金・事業の活用スケジュール
申請:2022年 8月
※申請を決めてから申請期限までの時間が短く、急ピッチで企画書などを作成したという。
交付決定:2022年 10月
2022年 11月26日~12月4日 ライトアップイベント開催
実績報告提出:2022年12月
額確定:2023年1月
補助金受取:2023年 2月
<効果>
柴又の新たな魅力 継続的にPRできるように

山本亭の来場者は、普段の土日で1日平均150人程度。平日はさらに少ないが、期間中の来場者は計1800人を超えた。営業時間を延長した山本亭は「庭園のライトアップを眺めながらお茶を楽しむことができる」と好評だったほか、団子店や居酒屋など商店街の数店舗も呼応して夜間営業し、にぎわった。来場者の好感触を受けて、石川さんは「にぎやかなイベントとは一線を画すライトアップは、柴又の新たな魅力になりうる」と感じているという。
同助成金は翌年以降も事業を継続して実施することを前提に、2、3年目も補助が出るため、2023、24年もイベントを予定している。コロナ禍で疲弊していた観光地にとって、再起の起爆剤として大きなサポートになっている。
平日の来場者が土日と比べて少なかったことから、2023年秋のライトアップは開催期間を短くして開催する予定だ。営業時間延長に応じてくれる商店街の店舗を増やす狙いもある。同協会では、昨年よりも事前PRに力を入れることで、前回よりさらに多くの人に訪れてもらうことを期待している。