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ご当地料理×体験コンテンツ「青梅・奥多摩ごぜん」開発
~「食」をテーマに地域の魅力を発信

活用した支援メニュー
地域資源発掘型プログラム事業(第2回)

事業者情報

企業名
(一社)青梅市観光協会、(一社)奥多摩観光協会、西東京農業協同組合 (事務局:まちづくりラボ・サルベージ(株))
所在地
東京都青梅市、奥多摩町
HP
「青梅・奥多摩ごぜん」のメニューの一例

 「食」を通して青梅市と奥多摩町の観光産業を盛り上げようと、同市町の観光協会とJA西東京の3者は2021年から、地域の旬の食材を活用したご当地メニュー「青梅・奥多摩ごぜん」の開発を進めている。同エリアの飲食業者や宿泊業者と連携し、農産物の収穫や生産現場の見学などを含めた体験型コンテンツを盛り込み、また地元の工芸作家による作品も活用することで地域の魅力発信と誘客につなげる。

<補助金・事業を利用したきっかけ>
旅の楽しみ「食」に着目し、1市1町と農協が連携。地域の資源や産業を活かしたメニュー開発を目指す

 青梅市と奥多摩町は都内でも特に農業・水産業が盛んで、露地野菜や山菜、川魚などそれぞれに豊かな自然資源から生まれる名産品や特産品がある。企画提案者の一人である青梅市観光協会の吉田知宏氏は、事業を始めるにあたって地域で楽しめる「食」に着目した。「旅の楽しみは食が大きな割合を占める。食の充実が観光の満足度を高める」と吉田氏はその背景を振り返る。
 スタートに際しては、同市に隣接し歴史的なつながりや観光客の往来がある奥多摩町と連携することで、それぞれの地場産品を活かした郷土料理のメニューを開発しようと試みた。食材となる旬の農産品の選定や調達には、西多摩地域を管轄するJA西東京の協力を仰いだ。
 こうして2021年10月、「地域資源発掘型実証プログラム(現・地域資源発掘型プログラム)事業」に申請した。同プログラム事業は都内の観光協会や商工会、民間事業者など3者以上での応募が条件で、提案額の上限は1,000万円(※広域連携の場合、単域の場合は上限600万円)。企画が選定されると、東京観光財団が審査会を実施し、民間事業者等に事業を委託する。2年目、3年目は助成事業となる。
 財団の審査で、長らく地元で活動し、様々な事業者とのネットワークを有する観光事業支援コンサルのまちづくりラボ・サルベージ株式会社が事業実施者として委託を受け、3者に加わった。

<補助金・事業を活用した取り組み>
地域の飲食業・宿泊業らとともに汗を流した「ごぜん」づくり。
和洋のメニューや収穫体験、工芸品のPRを一つのパッケージにした試食会を実施

夏メニューの試食会の様子
秋メニューの試食会の様子

 開発に際しては、企画提案者である青梅・奥多摩の観光協会、JA西東京、委託事業者のまちづくりラボ・サルベージの4者が中心となり連携協議会を結成。同協議会には東日本旅客鉄道株式会社や御岳山観光協会、各自治体等も加わり、青梅・奥多摩への誘客に向けたPRを行った。
 4者は「ごぜん」づくりへの協力を募るため、飲食業や宿泊業などモデル事業者探しに奔走した。それぞれの業種で地域を盛り上げようと奮闘する意欲的な事業者に出会い、料理の内容や盛り付け、調理法まで細かくヒアリングや協議を重ねた。料理のジャンルは和食やイタリアン、バーベキューなど和洋を問わず、形態もカフェや宿坊など様々。最終的に、青梅市と奥多摩町でそれぞれ3つ、計6事業者が加わりメニューの開発に励んだ。
 「ごぜん」に使う地域の旬の食材を取りまとめ、調達する役割を果たしたのがJA西東京だ。同JA営農課の野﨑英樹課長は、季節ごとに入手可能な地場の農産品をまとめたカレンダーを作成した。また、青梅市と奥多摩町の計3カ所の直売所を活用し、最寄りのモデル事業者が新鮮な野菜などを入手できるルートの確保も進めている。
 協議会としてはさらに、郷土料理を食べるだけでなく、使われている食材の生産の現場を見たり、消費者自身が収穫を体験したりできるコンテンツも考案した。一例として、川魚養殖施設では一般的なヤマメより大きな「奥多摩やまめ」の飼育環境を実際に見て学べる。収穫体験では、自ら摘み取ったトマトやブルーベリーが調理され、「ごぜん」として仕上がる過程を見届けることができる。吉田氏は「現場の生産者から直接話を聞き、生産や加工、流通の過程を知ることで消費者に安心感を与えられ、『ごぜん』の価値が増す」と話す。
 さらに、「ごぜん」に彩りを加えようと、地域の工芸作家の元にも足を運び協力を依頼した。明治から昭和にかけて、青梅が一大産地として知られた織物「青梅夜具地」の箸入れや、間伐材を使ったコースター、再生ガラスの酒器など郷土色豊かな作品がそろい、特色ある「ごぜん」の演出を図った。この演出には、プログラム事業を通して地域の伝統産業や職人の存在を広くアピールし、さらに地元の工芸作家らの出会いと交流の機会を創出することで地場産業の支援につなげるねらいがある。
 メニュー完成後、夏メニューと秋メニューの試食会をそれぞれ3回ずつ行った。農産物の産地や酒造の見学、御岳山、氷川渓谷のガイドウォークなどを盛り込んだ充実した内容で展開した。夏メニューは新聞や雑誌、食のインフルエンサーなどメディア向け、秋メニューは一般向けに行い、計70人以上が参加。各回ともアンケートを実施し、「ごぜん」の可能性を検証した。

地元の工芸作家による青梅夜具地の箸入れ

概算費用

総事業費990万円
うち収入10万円(モニターツアー参加費)を財団委託費から減額

補助金・事業の活用スケジュール

申請:2021年10月
採択決定:2021年11月
委託開始:2022年2月
・「青梅・奥多摩ごぜん」開発連携協議会の運営(全5回):2022年3月~8月
・ご当地料理資源の発掘:2022年4月~6月 
・「青梅・奥多摩ごぜん」の開発、体験型コンテンツの開発:2022年5月~7月
・試食会の開催(夏、秋2回):2022年6月~8月
・広報PR媒体の制作・広報:2022年8月
委託完了:2022年9月

<効果>
充実した地域の食×体験のコンテンツが高評価、事業者の意欲の高まりも

青梅市観光協会、奥多摩観光協会、JA西東京、まちづくりラボ・サルベージの各担当者

 まちづくりラボ・サルベージの上垣真子氏によると、メディア向け試食会では「地元の食とさまざまな体験、工芸品の組み合わせが高い評価を得た」という。
 参加したモデル事業者は、メニュー開発の段階で専門家から味や盛り付けに関して辛口のフィードバックを受けるなどの「試練」もあったが、青梅市観光協会の吉田氏は「それをバネとして、各事業者なりの発見やさらなる研究の余地があった」と感じている。現在では、御岳山に20以上ある宿坊がメニューの開発に取り組む意向を示しているほか、「ごぜん」を味わえる宿泊プランを設けた温泉旅館もあるという。奥多摩観光協会の矢作佑允氏も「あるモデル事業者の店舗では、元々一定の人気があった料理を『ごぜん』の中に組み込んで提供する順番を工夫したことで、『店の看板商品となり得るメニューなのだ』という自信を持ってもらえた」と話す。
 今回の広域連携事業の支えとなったプログラム事業の存在について、吉田氏は「これだけの規模で試食会やアンケート、広告宣伝を展開するのは、この事業がなければできなかったと思う」と振り返る。上垣氏も「販促物の制作一つとっても、デザイナーに依頼できるようになるなど選択肢が増えた」とその効果を実感している。
 これからの取り組みと課題として、上垣氏はまず、「ごぜん」の定義の明確化を挙げる。品数の半分以上は地元食材を使い、産地が一目で分かるお品書きを作ることなどを定義づける方針だ。また、「ごぜん」を提供する飲食店や宿泊施設の増加や地元も対象に含めたPRの強化も進めていくという。
 青梅、奥多摩の魅力発信と地域振興の流れに、今後一層の弾みがつくことが期待される。