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インバウンドへのおもてなしを大幅強化
~キャッシュレス決済や自社予約システムなどを導入

活用した支援メニュー(最新版)
アドバイザーを活用した観光事業者支援事業 (令和6年度)

事業者情報

企業名
旅館加茂川
所在地
東京都台東区浅草1丁目30-10
HP
創業70年を迎える旅館加茂川

 創業70年を迎える旅館加茂川は、都内随一の観光地・浅草の仲見世から目と鼻の先に建つ。全10室の純和風旅館で、観光拠点として訪日外国人らの人気を集めてきた。
 同館は2021~2022年にかけて「アドバイザーを活用した観光事業者支援事業補助金」を活用し、キャッシュレス決済や自社予約システム導入、Wi-Fi設備拡充などに取り組んだ。

<補助金・事業を利用したきっかけ>
コロナ禍の長期休業 インバウンド復活を見据え大幅リニューアル

 同館は、観光客でにぎわう雷門からほど近くという抜群の立地に加え、畳敷きの部屋、風呂上りの浴衣、布団で眠れるといった日本ならではの体験ができることから、従来から外国人観光客の人気が高かった。同館の矢島淳子代表取締役によると、コロナ禍前の2019年は宿泊客の約85%を訪日外国人が占めていたという。ところが、2020年からのコロナ禍により売上は9割近く減少。その影響で2021年1月から長期休業に入ったが、アフターコロナを見据え、休業期間中に大幅リニューアルに取り組むことにした。
 インバウンド需要が回復した際の受入態勢を万全にしておこうと、インバウンド観光の専門家から助言を求めた。対面での面談は、矢島代表があらかじめ考えていた事業の素案を、専門家とともにブラッシュアップしていく形式で進んだ。
 例えば「自社予約システムを搭載したいが、どのシステム会社のものを使うのが良いか」という質問に対しては5つほどの選択肢を提示された。また、感染対策のために導入を検討していたキャッシュレス決済端末やレジシステムについては「海外ではキャッシュレスが当たり前。ぜひ導入すべき」との助言を受けたという。コロナ禍の終息が見えない中での大規模な設備投資には迷いもあったが、「インバウンドは絶対にまた回復する。準備には良いタイミングだ」と背中を押された。矢島代表は「先が見えなかった中で、前向きなアドバイスにはとても勇気づけられた」と振り返る。
 助言内容を受け、2021年11月、「アドバイザーを活用した観光事業者支援事業補助金」を申請した。

<補助金・事業を活用した取り組み>
翻訳機導入やWi-Fi設備拡充まで幅広く

導入した自社予約システム。事前決済にも対応している
フロントに設置した翻訳機(左)と、キャッシュレス決済用の専用端末とタブレット端末

 補助金を活用した事業は多岐に渡る。
 一つは自社予約システムの構築。アドバイザーから紹介されたもののうち、管理画面にカタカナ語が少なく使いやすいと感じた国内メーカーのシステムを選んだ。宿泊予約の多くはオンライン旅行会社(OTA)経由だったが、メールでの予約も1割ほどあり、外国語でのメールそのものに加え、クレジットカード情報などのやり取りが発生する際はセキュリティ対策にも気を配らなければならず、同館にとって大きな負担となっていた。自社予約システムの導入によってこうした負担がなくなったほか、システムがクレジットカード会社と連携しているため事前決済にも対応でき、キャンセルポリシーにしたがってキャンセル料の徴収もできるようになった。自社予約システムを搭載するため、公式サイトも部分的に改修した。
 また、外国人客へのおもてなし強化策として、フロントに据置き型翻訳機「ワールドスピーク」を設置した。2つの端末が対になっており、音声と文字で100言語以上の同時通訳ができる。宿泊客とは、チェックイン・チェックアウト時だけではなく、一時的な荷物預かりなどでも細々とした会話が発生する。そうした際に、外国語に不慣れなスタッフでも対応できることを目指した。同時に、クレジットカードをはじめとしたキャッシュレス決済に対応する専用端末とタブレット端末も導入した。
 併せて、PR動画も制作し、雷門からのアクセスの良さや、宿から出るとすぐに見えるスカイツリー、畳敷きの落ち着いた部屋の様子などが効果的に伝わる映像を撮影し、1分半ほどの動画2本にまとめた。それぞれに日本語字幕版と英語字幕版を用意し、計4本をYouTubeにアップ、公式サイトにも埋め込んだ。

各階で更新した無線LANの親機

 さらに、Wi-Fi設備の拡充にも取り組んだ。4階建ての各階に無線LANの親機を設置していたが、部屋の間取りなどによって電波が弱い場所があったことから各階の親機を更新し、各部屋にアクセスポイントを増設。コロナ禍で生まれた「テレワークのために宿泊施設を利用する」という新たな潮流も意識した。
 交付が決定した2021年11月から全ての事業を並行して実施し、2カ月程度で整備が完了した。

概算費用

総事業費約120万円  そのうち補助金 約74万円

補助金・事業の活用スケジュール

アドバイザーからの助言を受ける:2021年6月
申請:2021年11月
交付決定:2021年11月
実績報告提出:2022年3月
額確定:2022年3月
補助金受取:2022年5月

<効果>
業務効率化だけでなく 小さなストレスまで払拭

 事業終了後、2021年12月から営業を再開した。
 自社予約システムは後日、今回の事業とは別に導入した予約管理システムと連携させ、どのルートから予約が入っても一元的に部屋割りなどの管理ができるようにした。矢島代表は「紙ベースで予約管理をしていた頃とは利便性が段違い」とその効果を語る。また、キャッシュレス決済対応で現金のやり取りが減り、フロント業務の時短につながった。拡充したWi-Fi設備も好評で、ネット上でも「Wi-Fiが快適だった」という口コミが増えた。
 矢島代表は、業務の効率化以外に「小さなストレス」が消えたことにも恩恵を感じている。キャッシュレス決済対応によりほぼ全ての支払い方法を網羅でき、キャッシュレスでの支払いを断る心苦しさが消えた。部屋でWi-Fiが繋がらないためにロビーまで出てくる宿泊客の姿も見かけなくなった。自社予約システムの導入についても、情報セキュリティ面の不安が消え、「精神的に楽になった」という。
 2022年10月の水際対策緩和以降、同館には連日、外国人客が訪れている。純和風旅館という伝統を引き継ぎつつ、今後も時流に合わせた取組で魅力を高めていく。