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AR機能搭載の多言語ECサイトで陶磁器の魅力発信
~認知度アップで個人客増加、売上の底上げに

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観光経営力強化事業(第1回)

事業者情報

企業名
ゆうらホールディングス株式会社
所在地
東京都千代田区神田錦町3-21
HP
英語・中国語・フランス語の越境EC

 陶磁器などの卸と小売を展開する「ゆうらホールディングス株式会社」は、2016年に創業。日本全国から陶磁器やホーロー製などのテーブルウェアを集めたショールーム3カ所を運営するほか、消費者のニーズを全国各地の工房に持ち込み、オリジナル商品の開発なども手掛けている。
 同社は2020~2021年にかけて「観光経営力強化事業」を活用し、英語・フランス語・中国語簡体字と日本語の4言語に対応した越境ECサイトを開設した。同時に在庫管理システムも整備したほか、ECサイトで購入した商品を店頭で受け取ることができるようにした。

<補助金・事業を利用したきっかけ>
コロナで売り上げゼロに “やむなく”ECサイト構築へ

 同社の代表取締役である佐々木歩美社長によると、コロナ禍前はECサイトを作るつもりは一切なかったという。「陶磁器は一点一点、風合いや色合いが微妙に違う。お客様に実際に手に取って『これがいい』と楽しみながら選んでもらうもの」だとの思いが強かったためだ。しかし2020年に始まったコロナ禍により、外国人観光客が激減。緊急事態宣言などにより国内の移動も制限されたことで国内の客も遠のき、同社の収益の2~3割を占めていた店舗での売り上げはゼロに。経営のためにやむなくECサイト構築を考えたが、売り上げがない中で踏み切れずにいたところ、東京都のサイトで同事業の募集を偶然見つけ「もしかしたら当てはまるかも」と書類の作成を始めた。
 コロナ禍前は来店客のうち半数以上が外国人だったこと、中でも中国からの旅行者が多かったことから、中国語と英語の多言語ECサイトにすることを決めた。また、フランスで開かれるインテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」への出展を計画していたことから、フランス語も搭載することにした。

<補助金・事業を活用した取り組み>
ECサイトにAR機能 コロナ禍でも「実際に手に取るような」食器選び体験を提供

AR機能により、食卓に置いた状態をシミュレーションできる

 ECサイトを制作会社に発注した際、提案されたのがAR機能(拡張現実)の搭載だった。スマートフォンのカメラで映し出した風景に商品のバーチャル画像を重ねることで、「食卓で実際に使っている」ようにシミュレーションする。商品の実際の色や大きさを、自宅のテーブルで手持ちの食器と並べて検討できるのが特徴だ。ECサイトへのAR機能搭載は、大型家具の試し置きやファッションの試着といった分野で導入が進むが、食器ではまだ珍しい。コロナ禍で実際に来店できない層にアプローチする絶好の方法だと考えて実装した。「想像していたものと違った、というミスマッチが減る」と佐々木社長。同社のECサイトでは、一部の商品がこの機能に対応している。
 ECサイトトップページの写真は、スーパーや百貨店で総菜を購入し、実際に食器に盛り付けて自ら撮影した。テーブルコーディネートや食事の盛り付け方を提案するほか、食べ物を盛ることで商品のサイズ感を直感的につかんでもらえるよう工夫した。
 ECサイトで購入した商品を、ショップで受け取るシステムも構築した。決済まではECサイト上で済ませ、商品の受け取り日時を選んで来店してもらう。釉薬のかかり方などの微妙な個体差を実際に見て選ぶことで、より愛着を持ってほしいとの配慮からだ。このシステムは、コロナ禍では予約制のような形で機能。密の生じやすい5坪のショールームで、来店客同士のバッティングを防ぐ役割を果たした。佐々木社長は「思わぬところで役に立ったと」話す。
 ECサイトとともに在庫管理システムも構築。それまでは商品の納品書などを紙ベースで管理していたが、クラウド上で管理するようにした。食器だけでなく土鍋やカトラリー類の販売も始めたところ取扱商品が大きく増えたため、システムで業務を効率化した恩恵を感じているという。

概算費用

総事業費約130万円  うち半額が補助金
 ECサイト制作費、カスタムメイド機能実装、専門家への相談費、翻訳費等

補助金・事業の活用スケジュール

申請:2020年9月
※「申請書類を用意するのが大変だった。手探りだった」と佐々木社長。専門用語を部外者にもわかりやすく書くことを心がけた。書類審査の後、対面面接があったが「内容をほとんど覚えていないくらい緊張した」。
観光経営力強化事業(先進的取組支援)に採択される:2020年10月
交付決定:2020年10月
事業開始:2020年10月
ECサイト作成に入る:2020年12月~2021年1月ごろ
※コロナ禍によりECサイト構築の需要が急増し、納期の希望に沿った制作会社がなかなか見つからなかったため、実際に作成に入るまで3カ月ほどかかったという。
ECサイト完成、リリース:2021年9月
額確定:2022年11月
補助金受取:2022年11月

<効果>
認知度アップを実感 来店できない個人客へもリーチ可能に

ゆうらホールディングス株式会社 
佐々木歩美 代表取締役社長

 2022年1~2月、それまでも毎年出展してきた展示会「テーブルウェアフェスティバル」に、ECサイトリリース後初めて出展。ブースを訪れた人にECサイトのQRコードを掲載したチラシを配布した。常設店舗でも購入者にチラシを配布している。実際に後日ECサイトで購入してくれた人や、購入したものを気に入ってECサイトで追加購入してくれる人もおり、売上の底上げになっている。購入を迷っている人に対し「ECサイトがなかったときは『また店舗に来てください』としか案内できなかったが、『いつでも購入できますのでご覧ください』と言えるようになった」と佐々木社長。購入を促す大きな武器になっているという。
 また、2022年3月には民放の旅番組で同社ショールームが取り上げられ、直後からECサイトの売り上げが急増した。利用者の中には来店が難しく、ECサイトがなければ獲得できなかった層もいるとみられ、販路を拡大できたと感じているという。売上に占める個人客の割合が4割近くまで増えたほか、利用者からはAR機能について「自宅のインテリアやテーブルに置いた雰囲気がわかってよかった」という声が届いている。佐々木社長は「今後はECサイトの取扱商品とAR対応の商品をさらに増やしていきたい」と意気込む。