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紙の歴史や文化を伝える史料館に英語音声ガイドを設置
~日本橋に息づく370年以上の歩みを、世界へ

活用した支援メニュー(最新版)
美術館・博物館等の観光施設の国際化支援補助金(令和7年度)

事業者情報

企業名
株式会社小津商店(小津史料館)
所在地
東京都中央区日本橋本町3-6-2小津本館ビル
HP
JR総武線快速 新日本橋駅から徒歩2分という好立地にある

1653年、江戸時代中期に日本橋で創業した株式会社小津商店は、370年以上にわたり、和紙を中心とした紙の専門商社として日本の紙文化を支えてきた。同社の社屋には和紙の販売・体験・展示が楽しめる複合施設「小津和紙」があり、その伝統は今も受け継がれている。

小津和紙は、和紙の販売・体験・展示が一体となった文化施設だ。販売スペースには、日本の手漉き和紙にこだわり、全国各地の産地から選び抜かれた製品が並ぶ。紙漉き体験ができる工房や、書道・絵画・ちぎり絵など展覧会を行うギャラリーも備え、訪れる人々に和紙の多様な魅力を伝えている。

なかでも特に目を引くのが、社屋の3階に設けられた「小津史料館」。ここでは、時代の流れとともに暮らしを豊かにしてきた紙と、小津商店の歴史との関わりを紹介しており、国内のみならず、海外からの来館者にも親しまれている施設である。

同施設は、より多くの来館者に展示を楽しんでもらえるよう、2024年に英語による史料館の音声ガイドを導入。今回は、その導入に至った経緯について、株式会社小津商店の一瀬正廣館長と、小関紀子氏に話を伺った。

<補助金・事業を利用したきっかけ>
外国人来館者にこそ、史料館の展示内容を伝えたかった

手漉き和紙体験工房では、手漉き和紙の制作体験や工程の実演を行っている
店舗の中でも特に人気の高い、和紙の販売コーナー

元々、小津史料館は小津和紙の2階に位置していたが2011年の東日本大震災をきっかけに免震工事が実施され、建物全体が大きく改修された。その際、2階にあったギャラリーと史料館は再構成され、史料館は3階へと移設、2階の一部はお客様にゆっくりと過ごしていただく無料休憩スペースとして生まれ変わった。この館内の構成変更には、訪れた方に一歩足を止め、紙や歴史とじっくり向き合う時間を過ごしてほしいという思いが込められている。

日本の中枢として栄えてきた日本橋には多くの歴史が刻まれており、小津商店は370年以上にわたり商いの中心地として発展してきたこの地を見守ってきた。そうした背景のもと、小津史料館は紙文化を通してその歴史の深さにふれる場として、無料で開放されている貴重な存在である。

現在、同社の和紙販売や紙漉き体験は、訪日外国人旅行者の間でも高く評価されており、なかでも英語圏からの来館者が目立つという。多くのお客様は体験や買い物を終えたあと、自然な流れで3階の小津史料館へ足を運び、展示物を通じて紙文化の奥深さにふれている。館内では和紙ができるまでの工程を紹介するDVDを見ることができ、DVDには英語版も用意されているが、展示の解説には英語のパンフレットや音声ガイドがなく、外国人の来館者が内容を十分に理解できないという課題があった。

3階では、3名のスタッフが交代で勤務し、お客様の対応にあたっている。しかし、いずれも英語を専門としているわけではなく、英語での質問に十分に応じられない場面が少なくなかった。日本文化に関心を持ち、わざわざ足を運んでくださる外国人のお客様に対し、史料館の内容を十分に伝えきれないことに、一瀬館長は課題を感じていた。

そうした中、近隣にある博物館で無料の音声ガイドが導入されていることを知り、小津史料館でも同様の仕組みが導入できないかと検討。東京都のホームページを調べる中で、「美術館・博物館等の観光施設の国際化支援補助金」を発見する。

「せっかく訪れてくれた海外の方にも、展示の内容を届けたい」との思いから、一瀬館長は補助金の申請に踏み切ることとなる。

<補助金・事業を活用した取り組み>
伝わる構成と音声の質に徹底的にこだわる

検討を重ねた結果、館内に音声ガイドのリンクページへと誘導するQRコードを掲示し、お客様にご自身のスマートフォンで読み取っていただく形式を採用することとなった。無料Wi-FiのIDとパスワードもあわせて掲示しており、スマートフォンさえあれば、どなたでも気軽に利用できる仕組みである。音声ガイドは、日本語と英語の2言語で制作することにした。

一瀬館長は、音声ガイドの制作に着手する。まず必要だったのは、館内の動線に沿って紹介すべき展示物の選定である。紹介する展示物が決まると、それに合わせた解説文の原稿執筆に取りかかった。どの順番で、どのように紹介すればお客様にわかりやすく伝わるか考え、この構成の検討に最も力を注いだ。

日本語の原稿が完成すると、専門の翻訳業者に英訳を依頼した。日本人にとっては馴染みのある歴史上の固有名詞であっても、外国人にとっては理解が難しいことがある。そのため、翻訳の際には補足説明も加える必要があり、一瀬館長は翻訳業者と何度もやり取りを重ねた。

音声の録音は、まず、ナレーターの選定から取りかかった。デモテープを聞き、どの声質だとお客様に伝わりやすいかを吟味していったのだ。検討を重ねた結果、日本語版は男性、英語版は女性のナレーターを起用することに決まり、その後も、日本語のアクセントなど細部の確認を行いながら、約半年をかけて音声ガイドを完成させた。

QRコードの横には英語の説明文も掲示してある
歌川広重の「東都大伝馬街繁栄之図」に紙問屋小津左衛門店が描かれている

<補助金・事業の活用スケジュール>

申請:2024年8月
交付決定:2024年9月
実績報告書:2025年1月
額確定:2025年2月
補助金受取:2025年3月

<効果>
音声ガイドが、日本の文化と歴史を伝えていく

東京都中央区民有形文化財として登録を受けた古文書が数多く展示されている
株式会社小津商店 小関 紀子 氏(左)一瀬 正廣 館長(右)

英語の音声ガイドを導入したことで、外国人のお客様も小津史料館の展示をじっくりと楽しめるようになった。3階のスタッフが英語での問い合わせに対応する機会も減り、業務の負担軽減にもつながっているという。
「英語のナレーションがとても聞きやすかったとお褒めの言葉をいただいたことがあり、じっくり選定して本当によかったです」と一瀬館長は笑顔で語る。構成に時間をかけて練り上げ、慎重に選んだナレーターは、多くのお客様から高い評価を得ている。
「毎日のように海外のお客様がお買い物や紙漉き体験におみえになります。お客様の滞在時間も以前より長くなったように感じます」と語るのは、広報窓口を担当している小関氏だ。
約370年にわたりこの地で商いを続けてきた小津商店が所蔵する史料には、歴史的な価値がある。それらを無料で公開しているのは、日本橋で積み重ねてきた歴史と文化をより多くの人に伝えたいという思いがあるからだ。多言語対応の音声ガイドは有料のケースも多いが、一瀬館長は「外国人の方にも気軽に見学していただきたい」と、無料での提供にこだわった。

今後は、音声ガイドの活用を通じて、より多くの観光客に日本橋の魅力を伝えることを目指していきたいという。現在は、最近設置したデジタルサイネージの英訳表示も検討しており、視覚情報と音声の両面から、展示の理解を深める工夫を進めている。
訪れる人が国や言語を超えて、この地の物語にふれ、記憶に残るひとときを過ごせるように、小津史料館はこれからも日本橋の文化を発信し続けていく。