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フローリングやスロープ整備で1階和室をバリアフリー化
~水回り設備も充実 稼働率も年々上昇

活用した支援メニュー(最新版)
宿泊施設バリアフリー化支援補助金(令和6年度)

事業者情報

企業名
島宿 治五平
所在地
東京都新島村本村5-2-8
HP
バリアフリー化した客室

 伊豆諸島の一つである新島は、都心から南に約160kmの距離に位置し、美しい海を目当てに訪れる海水浴客やサーファーなどで賑わう。島宿 治五平は、昭和初期に下宿としてスタートし、のちに民宿に形態を変えて宿泊業を営んできた、新島でも指折りの老舗宿だ。
 同宿は2021年、「宿泊施設バリアフリー化支援補助金」を活用し、1階の和室をバリアフリー化。島内初のバリアフリー対応宿泊施設となった。

<補助金・事業を利用したきっかけ>
バリアフリーの必要性 オーナー自身の経験から

 新島では、客室は畳敷きという昔ながらの民宿が多く、同宿も同様だった。2020年、出川昌子オーナーは地元商工会との話し合いの中で、自宅兼客室として使用していた1階の和室4部屋をバリアフリー化してはどうかと提案され、同補助金の存在を知った。その提案に魅力を感じたのは、義母や夫が生前、車椅子を利用していた経験からだった。室内の小さな段差で転倒したことがきっかけで車椅子生活になった義母のことを思い返し、使いやすく安全な客室の必要性を実感。補助率・補助限度額の高さもあり、申請を決めた。
 東京都の宿泊施設バリアフリー化促進アドバイザー派遣制度を活用し、専門家の派遣を要請。和室4部屋、計58平米ほどを洋室2部屋に再編し、玄関から部屋までの経路を整備することなども提案された。改めて設計・施工を専門家と契約し、2020年11月に同補助金を申請した。

<補助金・事業を活用した取り組み>
客室内に浴室とトイレ 車椅子でも移動しやすい広々空間

 廊下と2つの客室は、段差を解消するため全面的にフローリングへ張り替えた。客室へ続く扉は、車椅子ユーザーでも開けやすく出入りしやすいように幅広の引き戸で、鍵の位置も低めにした。広々とした室内は車椅子でも移動しやすく、室内のテレビは壁掛けできる薄型タイプを採用し、障害物も極力減らしている。
 また、共同のトイレや風呂への動線のバリアフリー化が難しかったため、客室内にトイレと浴室を整備。その場で方向転換ができるように広めのスペースを取った。トイレと浴室にはL字型の手すりを設置して、車椅子からの移動をサポートする。障がいの程度や同行者の有無によって使いやすい浴室の形式は異なるため、1室はシャワーブース、もう1室はバスタブのある風呂を採用。さらに洗面台も足元に空間のあるタイプを選び、車椅子に座ったままぎりぎりまで洗面台に近づけるように配慮した。1室にはミニキッチンがついており、こちらもシンク下に空間があるものを選んだ(ミニキッチンは補助対象外)。2室の仕様を少しずつ変えることで、より幅広い客層に訴求できるようにした。
 玄関から客室までの動線も整備した。地面から玄関部分までの20cmほどの段差は、長さ約4m、幅90cm、勾配12分の1のスロープを設置して解消し、バリアフリー客室専用の玄関とした。左右両方には腰高の手すりも設置した。玄関のたたきと建物内では約15㎝の高低差があったため、普段はコンパクトに畳んで収納できるポータブルのスロープを購入。必要な際に設置する形式にした。
 加えて、壁の一部に新島固有の石材・コーガ石を用いたり、部屋番号のプレートにはコーガ石から作られグリーンの色味が特徴の新島ガラスを使うなど、随所に「新島らしさ」が感じられる仕掛けも散りばめた。

1室にはシャワーブースとトイレを整備した
ポータブルスロープを設置した玄関
玄関前のスロープ
新島ガラスでできた部屋番号プレート

<概算費用>

総事業費約3,547万円  そのうち補助金約2,972万円

<補助金・事業の活用スケジュール>

申請:2020年11月
交付決定:2020年12月
実績報告提出:2021年8月
額確定:2021年10月
補助金受取:2021年11月

<効果>
稼働率が年々アップ 新たな旅先の選択肢に

島宿 治五平 出川 昌子 オーナー

 2021年夏シーズンから2つの客室の稼働がスタート。同宿のサイトなどで「バリアフリー対応」と記載すると、当初想定していた車椅子ユーザー以外にも、視覚障がいのある人や、階段の昇降に不安を持つ妊娠中の女性など、多様な事情によってバリアフリーを求める人たちからの予約が入るようになった。墓参りのために島を訪れる高齢者の定宿になるなど、リピーターも獲得。バリアフリー客室の稼働率は年々上昇している。
 2023年夏には、重度の障がいがある電動車椅子のユーザーも受け入れ、問題なく過ごしてもらえたという。出川オーナーは、今まで島に来ることを諦めざるを得なかった客層に、新たな旅先の選択肢を提供できたと感じているといい、「さらに多くの人にとって使いやすく、魅力的な宿にしていきたい」と語る。