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1階和室と共用スペースをバリアフリー化
~新たな客層を取り込み 客室稼働率もアップ

活用した支援メニュー(最新版)
宿泊施設バリアフリー化支援補助金(令和6年度)

事業者情報

企業名
有限会社 肥田文(ゲストハウスひだぶん)
所在地
東京都新島村式根島9
HP
1階の大部分をバリアフリー化したゲストハウスひだぶん

 都心から南へ約160km。伊豆諸島の一つである式根島は、外周約12kmの小さな島だ。豊かな緑とリアス式の美しい海岸線が特徴で、夏場は多くのダイビング客や海水浴客が訪れる。島の中心部に位置するゲストハウスひだぶんでは、ドミトリーや和室など多様なタイプの客室を備え、幅広い客層をアットホームに迎え入れている。
 同宿は2021年、「宿泊施設バリアフリー化支援補助金」を活用し、1階の大部分をバリアフリー化。島内初のバリアフリー対応宿泊施設となった。

<補助金・事業を利用したきっかけ>
台風被害の復旧と合わせてバリアフリー化を決意

 千葉県を中心に大きな被害をもたらした2019年9月の台風15号は、伊豆諸島にも深い爪痕を残した。式根島でも多くの建物や施設が被災し、築40年を超えていた同宿では、強風で屋根が吹き飛ぶなどの被害が出た。雨ざらしになった2階の復旧を進める中、同宿の肥田光代代表は地元商工会との話し合いで、1階をバリアフリー化する提案を受けた。
 1階には風呂とトイレ、食堂といった共同スペースのほか、和室が4部屋あった。そのうち2部屋は客室として使用してきたが、北向きで暗いこともあり、稼働率が低かったという。提案は2間続きの仏間と合わせた計70平米ほどを、バリアフリー客室へリニューアルしてはどうかというものだった。バリアフリー対応の宿泊施設がなかった式根島には、それまで車椅子ユーザーが訪れることはほとんどなかった。
 同宿では以前から、自身で釣った魚を調理して食べたいという釣り客や、長期滞在するため食費を節約したいワーケーション客といった多様化するニーズに応えるために、1泊2食付きプランに固執しない運営を始めていた。多様な客層が集い、交流の場としても機能することにやりがいを感じていた肥田代表は、バリアフリー化によってさらに幅広い客層を取り込むことができるのではと感じ、大規模な改修に踏み切ることにした。
 東京都の宿泊施設バリアフリー化促進アドバイザー派遣制度を活用し、専門家の派遣を要請。補助率・補助限度額が高いこともあり、改めて設計・施工を専門家と契約した。そして、2020年11月に同補助金を申請した。

<補助金・事業を活用した取り組み>
共用スペースもフルフラットに トイレや浴室には手すり設置

 車椅子ユーザーが安全に建物内へアクセスできるよう、玄関前には長さ約3.5m、幅90cm、勾配12分の1のスロープを設けた。スロープの両側と、玄関前のポーチ部分にも腰高の手すりを設置し、高齢者などへも配慮。玄関から建物内への25cmの段差には、ポータブルスロープを活用することにした。
 客室内だけでなく、浴室・トイレや食堂といった1階の大部分をフローリングに張り替えた。客室や浴室への出入り口の段差も解消し、フルフラット化。また、ほとんどの扉を車椅子ユーザーでも開閉しやすい引き戸へ変更した。
 2カ所の共用洗面台は車椅子ユーザーの利用を想定し、足元に空間があるタイプのシンクを採用した。共用トイレ2カ所も、車椅子でもスムーズに出入りや転回ができるよう広めの設計にし、手すりを設置。4つの客室のうち1室には、室内にシャワーブースとトイレ・洗面台を設けた。
 かつて仏間だった2部屋は、家族連れなどが1部屋として広く使えるよう、壁を取り外せる仕様に。様々なニーズに対応する工夫を施した。

フローリングにした客室。入口は引き戸に変更した
1室にはシャワーブースとトイレ・洗面台を設けた
手すりを設置した浴室
トイレにも手すりを設置

<概算費用>

総事業費約4,725万円 そのうち補助金約3,614万円

<補助金・事業の活用スケジュール> 

申請:2020年11月
交付決定:2020年12月
実績報告提出:2021年8月
額確定:2021年10月
補助金受取:2021年11月

<効果>
車椅子ユーザーや高齢者から予約 潜在需要を実感

有限会社肥田文 肥田 光代 代表

 2021年夏から、改装した客室の稼働がスタート。足腰が弱く杖を使う人や高齢者が改装後の客室を希望するケースが多く、肥田代表はバリアフリー対応の宿泊施設に対して潜在的なニーズがあったことを実感しているという。
 天候によっては来島が難しくキャンセルになるなど離島特有の難しさもあるが、車椅子ユーザーからの予約も徐々に入るようになった。稼働率の低かった2つの客室の人気も上々だ。2023年夏には、家族が車椅子ユーザーだという客が宿泊し「全面的にフラットで、車椅子でも問題なく滞在できる。来年は家族を連れてきます」と声を掛けられたという。
 キャリーケースで重たい荷物を運び入れる宿泊客が玄関前のスロープを利用するなど、バリアフリー化の恩恵は当初の想定以上に広く波及している。「段差がなくなって、自分がつまずくこともなくなった」と肥田代表。車椅子ユーザーだけでなく、多くの人にとって快適な施設として、今後も多様な客層を迎え入れる。