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より足を運びやすい美術館を目指して
~展示スペースの思い切った改修で鑑賞環境を大幅改善

活用した支援メニュー(最新版)
美術館・博物館等の観光施設の国際化支援補助金(令和7年度)

事業者情報

企業名
太田記念美術館
所在地
東京都渋谷区神宮前1-10-10
HP
太田記念美術館の外観

 原宿・表参道エリアの閑静な路地裏に佇む浮世絵専門の美術館。北斎や広重、国芳らの作品約15,000点を収蔵する。様々な企画展も開催し、国内外の来館者に浮世絵の多彩な魅力を発信している。
 同館は2022年春に「美術館・博物館等の観光施設の国際化支援補助金」を活用し、館内の一部改修工事を行った。畳敷き小上がりスペースを撤去し、履物を脱ぐことなく浮世絵鑑賞を間近で楽しめる環境を整えた。

<補助金・事業を利用したきっかけ>
風情ある畳スペースが作品鑑賞のネックに トラブル続出に「何とかしなくては」

施工前の畳敷き小上がりスペース

 太田記念美術館1階には1980年の開館以来、畳敷き小上がりスペースを設けていた。広さは8畳程度で横長の空間となっている。お客様には当然、履物を脱いで上がっていただき、膝をつくような態勢で主に掛け軸などの鑑賞を楽しんでいただいていた。
 同館の担当者によると、畳には風情が感じられる一方、特にご年配や障がいのあるお客様からの評判は必ずしも芳しくなかったという。靴を脱いだり履いたりするわずらわしさを感じる方が多く、二段あった段差での転倒事例もあった。中でも最も職員を悩ませたのは、多数の靴が並ぶ中でお客様が他人の靴を履いて帰ってしまうトラブル。抗議や苦情も多く寄せられ、「お客様の安心・安全のために何とかしなくては」と思い切って撤去と改修を決定した。職員会議を重ねる中で「畳を取り払うと『和』の雰囲気がなくなり、常連のお客様が残念に思われるのでは」という懸念もあったが、総合的に見て畳を撤去するメリットの方が大きいという結論に至った。職員へのアンケートでも、7割が撤去に賛成した。
 2022年2月ごろから改修に当たって活用できる補助金はないかと模索していたところ、3月に入って偶然、インターネットで東京観光財団の補助金制度の存在を知り、すぐに申請を決めた。

<補助金・事業を活用した取り組み>
畳スペースを撤去し、鑑賞しやすいすっきりとした空間に

施工後の展示スペース
施工後の展示スペース

 補助金の申請後、施工業者に改修工事を依頼し、3月下旬には全面休館とした上で工事に取り掛かった。開館以来多くの入館者が利用した畳敷きスペースを撤去し、展示台下や床の木板、断熱材などを整備した。カーペットの色合いも他の箇所の床と調和がとれるよう、色違いにならないものを選んで敷いた。その結果、実質数週間で靴を脱ぎ履きすることなく作品を間近で鑑賞できるすっきりとした空間に生まれ変わった。工事は4月中旬に完了し、下旬には再び開館にこぎつけた。

補助金・事業の活用スケジュール

社内で改修工事の検討開始:2022年2月
申請:2022年3月上旬
※東京観光財団の「美術館・博物館等の観光施設の国際化支援補助金」の制度について知り、当補助金は外国人旅行者の受入環境整備が目的であり、当館はコロナ禍前の入館者のうち、既に2割近くを外国人旅行者が占めていたため対象にある点を確認し、申請をした。当初は補助対象事業のうち「安全・安心の確保」事業の「敷地内(建物の一部の場合には施設内)のバリアフリー化」を選択して申請をしたが、「安全・安心の確保」事業の「高齢者、障害者等が快適に鑑賞できる環境整備」の項目が適切であると補助金担当者から助言があり、項目を切り替えて申請した。
交付決定:2022年3月下旬
改修工事を着手(一時閉館):2022年3月下旬
改修工事完了:2022年4月中旬
実績報告提出:2022年4月中旬
再度開館:2022年4月下旬
補助金受取: 2022年10月

※補助金の手続きにおける不明点について、太田記念美術館の担当者は「財団側の丁寧なフォローで無事に解決でき、迅速に事業を進めることができた」と振り返る。一方では「もっと早くに補助金の存在を知っていれば、もう少し余裕をもって準備を進められていただろう」との思いもある。

<効果>
靴の着脱の手間省け、入館者「見やすくなった」 職員の負担減も

 靴の着脱の手間や苦労がなくなったことで、ご年配や障がいのある方、今や入館者の2割以上にもなる外国人観光客などを含め多くのお客様が気軽かつスムーズに浮世絵鑑賞を楽しめるようになり、「大いに好評を博している」と担当者は手ごたえを語る。実際、車いすで入館される方も、可動スペースが広がったことで多少混雑した状況でも館内をスムーズに移動できるようになっている。
 改修工事を経て、常連のお客様の9割以上は「作品が見やすくなった」と好意的に受け止めている。畳を恋しがる方もいるが、施設の快適性や利便性が向上しただけでなく、靴の取り違え問題も解消したことで職員の精神的な負担も減った。「思い切って改修して本当に良かった。大成功だ」と担当者は目を細める。
 補助金の活用を通して安全・安心な環境を整備する目標を達成し、多くの人にとってやさしい施設に無事生まれ変わった太田記念美術館。今後もたくさんのお客様にお越しいただき、日本の伝統美術の魅力を感じていただけるだろう。